絶P | ナノ
微々に繋げた縁










――― ギィン






銃声が響く、はずだった


その代わりに響いたのは、スパーダの剣が銃を弾く音
カラカラと音を立てて銃は階段を下り、先刻落ちていった銃弾の後を追う形になった

音の速さにも劣らない速度で剣を振り切ったスパーダ
彼は何が起こったのか分からず呆けているジークの腕を掴み、引き寄せた
コトリ、彼女が握っていたハスタの手が地に落ちる


額と額がくっつきそうな距離で、スパーダは強くジークを見据えて
荒い口調で声を大にして張り上げた


「…ッか野郎ォ!てめーがそいつの後追ってどうするつもりなんだゴラ!!」


「…す……ぱ、…」

「ウルカヌスに言われたんだろ、オレらを頼むって。確かにあの野郎もウルカの弟で相棒だろうけどな、オレだって…!」


スパーダの顔は泣きそうに歪められている
前世での兄を、現世の兄にでも重ねているのだろうか

声だけで、聞いていたルカ達にはスパーダの苦しみが伝わっていた
少年の顔を間近で見たジークはもちろん、彼ら以上にそれを感じていた

ウルカヌスであったジークにとっれゲイボルグは確かに大事な弟だったが
それと同時にデュランダルも、同じくらい大事に思った弟だった
そう、武器であろうと大事に思っていた、掛け替えのない弟だ


「オレ、だって、てめーの弟じゃねぇのかよ……!」


なのに自分は今しがた、その大事な弟を置いて、どうしようとしたのか


「すぱあ、だ」

「なぁジーク、お前も俺を……愛してくれないのか…」


痛みと苦しさを感じさせる抱擁だった
或いはそれがスパーダ自身の苦しみだったのかもしれない
一瞬苦痛を共有したジークは、どうすべきか迷った挙句、スパーダの背に手を置いて、幾度か上下した



「あいして、いるさ。きっと、」

「…自分の事だろ。はっきりしやがれ、馬鹿」

「愛情など、私にはよく分からない。悪く思うな」



苦しみを伴う抱擁が解け、ジークは立ち上がった

すると再びハスタの傍へ向かい、膝をつく
スパーダはその行動を止めたそうにそわそわとしていたが
ルカ達は黙ってジークを見守っていた

彼らの知るジークの性格からして、時間が無い事を理解しているのだから
長々と時間を使うような事はないのだと、知っているからこその余裕だ
貴重な戦力を置いていくなどという選択は以ての外


彼女はもう二度と心音の聞こえることがない青年の胸の上に手を置いて、瞑目する
別れの言葉を口に出す必要はない、再会の約束は、彼の懐の眼帯がそうだ
ジークはその約束を先刻失ってしまったが、それはそれでよかった

その手が向かう先は、数分前までハスタが握り振り回していた長い槍
両手で握り切っ先を上にして体の前に引き寄せ、柄に額をぴたりと付ける



(さよならだ。またいつか、平和になった世界で逢おう)



放浪生活を始めた頃は槍を使って生き抜いていたものの
持ち運びに不便な面もあって、敬遠していた長槍
この槍が何故か手に馴染むのは、前世で武器としていたものだからなのか
それともハスタが使っていた物だからなのか


紅い柄のいかにもハスタらしい槍を一振りして手に馴染ませ

ジークは振り向き、普段通りの無表情でルカ達へ一言




「時間を取らせたな。すまない、行こう」




普段と変わりない、声
迷いと躊躇いを微塵も覗かせない声に
この先黎明の塔でジークが立ち止まる事はないのだろうと、ルカ達はそう感じた




塔の最上階まで螺旋階段は続く

だが残りの階段は今まで登って来た段数に比べれば、極僅かだ






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