絶P | ナノ
終わりのカウントダウン









「あ、ジーク兄ちゃんにはまだ話してなかったんやけどな、天上は崩壊したんやなくて、地上と融合してんねん」

「……アスラとイナンナの願いが同時に叶ったのか」

「うひゃー、ジーク兄ちゃんはやっぱ理解早いわぁ。しかもあんま驚かんねんなあ」

「これでも若干驚いている。つまり…天は地上と重なり合っているが、結びついてはいない。だから色々とおかしい不完全な世界になったという解釈でいいのか?」

「あー、難しい事はよく分からへんけどアンジュ姉ちゃんが似たようなこと言ってたような……」

「む…お喋りの時間はお終いだ。エルマーナ、出発らしい」

「おっ、ついに黎明の塔やな!燃えてきたわぁっ」












ルカ達がサニア村で態勢を整え始めてから三日後の事

レグヌムの王都軍は、アルカ教団の本拠地である黎明の塔へ大部隊を派遣した
王都から黎明の塔への道すがらにあるサニア村は、軍隊の略奪に遭っていたのだが
村に残ったシアンが、ケルとベロと共に村を守るという任務を請け負った

そして、黎明の塔の上空を一隻の飛行船が飛んでいく
飛行船から七つの影が舞い、砂煙を高々と上げて塔の入り口付近に着地する

塔の周囲は王都軍とアルカ教団の、小規模な戦争のようになっていて、近いうちに大規模な戦争に発展するだろう
そんな中七つの影は、風のように塔へと駆け込んでいった



螺旋階段が天に向かって伸びている
ルカ達は黎明の塔を駆け上がった
時折アルカの信者達が現れたが、斬り倒ながら上へ上へと走っていく
中には転生者も混ざっていたのだが、所詮彼らとは格が違い、天術を使うまでもなく勝負はついた


きっとこの塔を登り切ったところにマティウスがいて、創世力がある
そう信じる心を試すかのように螺旋階段はひたすら伸び続ける

最高列を走っていたジークは、何かに感づいて、普段より少しだけ声量を上げて言った


「何か、来るぞ。…聞こえないか?」


丁度階段の踊り場に出て、その声を聞いた一行は足を止める

キイィィ ィ ン―――

風を切るような音が聞こえる
距離はそう遠くないようだった


現れたのは鋼鉄の塊
巨大な球形のポッドに人間のような手足が取り付けられたものが、轟音と共に階段へと飛び込んできた
その形には、見覚えがあるような気がする


「…ナーオス軍の基地にあった人型兵器だ…!」


ルカの指摘に、アンジュが眉を顰める
シリンダー漬けにされた恨みは忘れていないらしい

スピーカーを通して銅鑼声が響いた


「ほぉ、お前らまだ生きていたか」


「何だっけ、あいつ、ええと……」

「ブタバルド!」


ジークが唸ると、イリアが代わりにその名を呼んだ、どこか曲解されているような気がするが
ブタバルドことオズバルドは、その呼び名に反応する事なく呵々大笑した


「いいだろう、お前らでこの新型の性能を試してくれる。マティウスの前のウォームアップだ」

「マティウスを倒してどうするつもり!?」

「知れた事。創世力で私は神になる。この世の全てを支配するのだ!もう枢密院の年寄り共もいない、マティウスも邪魔者に過ぎん。もちろんお前らもだ」


枢密院がもういない、と言うオズバルド
何らかの手を使って壊滅させたのかもしれない
彼は自身に酔っているようだった


「ふふ、この新型相手に何秒持つかな?何せ以前とは出力が違うからな。さすがは神の肉体だ。死体と言えども、な」


オズバルドの言葉に、リカルドがぴくりと反応した
その新型のシリンダーに、入っている誰か
ジークにも、見覚えがある顔だった


「貴様、そこに見えるは……!?」

「そう、これは確かガードルとか言う名の燃料だったかな。素晴らしいエネルギーだ。このパワー、身を持って味わうがいい」

「彼の死を冒涜する気か!」

「ふん、直接手をかけたのは貴様らだろうが!」


その場に立ち会うことのなかったジークにも何となく事の顛末が理解できた
テノスで彼らと再会した時に感づいていたが、ルカ達が生きているという事はつまり、そういうことだ
彼らは神を、ガードルを自分たちの力で退けたのだ
多少といえども傷を負わせたジークは身を持ってその実力を知っていたからこそ
素直に感嘆することができた

それから、多少といえど、前世で関わりを持っていたガードル――いや、タナトス
リカルドの言うとおりその死を冒涜すると、いうのなら
ジークにも、オズバルドを憎む理由が出来ないことも、ない



「ついでにもう一ついい事を教えてやろう。ガードルの子孫達――グリゴリも既に私が掌握している。頭は固いが役に立つ連中だ。せいぜいこき使わせてもらうよ。…ぐははは、地上を守る礎、だと?せっかくの力を金や権力のために使わなくて一体どうしようと言うのだ!」

「ガードルはやり方を間違った。だが……」


リカルドの藍色の瞳は怒りに燃えていた


「だが、地上を愛する彼の心までをも踏み躙るような行為、絶対に許さん。貴様、生きて帰れると思うなよ」



「――― 生きて帰れないのはだ〜れだ」


その声は、やはり、場にそぐわないものだった
独特の雰囲気を纏い、紅い服の男が階段をゆったりと下りてきた



「か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・りっ」



彼は、ハスタは槍の柄頭をゆらゆらと揺らして、鋼鉄の巨人を指示した


「馬鹿者、私を頭数に入れてどうするか!」

「やー、失敬失敬」


僅かも悪びれる事のないハスタは、体を蛇のようにくねらせ
ねっとりとした視線を、ルカ達へと向けた


「デザートの時間だね。いささか『粗食』というか『粗敵』に喰い飽きてしまいましてな。子供の笑顔とオレの心の平安のため、面白可笑しく殺されちゃってもらえませんか?OKですか?」


ルカがハスタをキッと睨む


「君に借りを返さないとね。騙された時の事、忘れてないよ」

「やあ、力強い呪詛の響き。だが靴と服のコーディネートが気に入らないので死刑な」


びし、とルカへ槍を向けるハスタだが
オズバルドが窘めるように口を挟む


「おいハスタ、勝手な真似は慎め。今回は新型の性能テストも兼ねているのだ。余計な手出しは、」


瞬間



「あー、もういいからお前、死んでよ。みんな一緒に殺してやるからさ」



鋼鉄の巨人はハスタの槍に串刺しにされていた
引き抜かれた槍には、べっとりと血が付いている
鋼鉄の巨人はもう、動かない

オズバルドの声ももう聞こえない


「…んで、最後はマティウスだな。いや、待て。全人類をこの手で殺すってのも、古今例のない事だぜぇ?」

「お前は一体誰の味方なんだ?」


リカルドが舌打ちをする
ちらりと動かなくなった兵器の方を見て、一瞬だけ表情を曇らせた
それに気づいたルカが、躊躇いがちに声をかける


「…あの、リカルド、」

「言うなミルダ。今はこいつと、マティウスだけに集中しろ。泣いたり叫んだりは後からでもできる」

「う、うん……」

「…全てが終わった時、酒の酌をしろ。いいな?」

「うん!」


二人の会話の間、『誰の味方か』と問い掛けられたハスタはずっと考えていたらしく
頭上に疑問符を浮かべながらも、またすっと視線を戻した


「少なくともお前の味方じゃないな。殺し合うには十分な理由だろ?」


悪魔のような微笑が、ハスタの顔に浮かべられる



「この歌を、家族と犬と、ウルカに捧げます」



ハスタがゆらりと槍を構える
その時確かに、ジークは彼と目が合ったのだ


そして、戦いが始まる
マティウスを前にしてだが、総力戦となることは目に見えている

共倒れになりそうな戦いだった

だが、勝利を手にするのはどちらか一方しか、あり得ない






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