絶P | ナノ
笑顔を見つけた










「質問タイムは無しだ。私の…その、脳内会議では満場一致で却下だ、ポン」


イリアの実家であるという民家に入って、やはり視線に耐えられなかったのか
開口一番早口にそう捲し立てたジークは、某槍使いの真似をしてその場をやり過ごそうとする
背中には嫌な汗がだらだらと流れているような気がした

だが、やはりそれで乗り切れる場面でもなかったようで

まず、口を開いたのはイリアだった


「やっぱり馬鹿よ、あんた。裏切ったり、助けたり…」

「た…助けたつもりはない、ぞ」

「ジーク、今更言い逃れは通じない」


そろりとイリアから視線を外した先にいたリカルドが、淡々と言う
本日何度目になるかも分からない舌打ちをしたジークはぐしゃりと頭を掻き乱した
この状況は非常に、非常に居た堪れないことこの上ない


「ジークがガードルの足止めをしてくれなかったら僕達はここにいなかったかもしれないんでしょ?十分助けられたよ」


ジークに助けられたのは二度目だね、と
無垢な笑顔を向けてルカが言った


「せや!ジーク兄ちゃん見直したわぁ、もう大好きやっ」

「え、っエルマーナ…!」

「ジーク君、ありがとう。それから、信じてたわ」

「…だからアンジュ、私はそんなつもりじゃ……」

「礼くらい素直に受け止っておけ。俺も感謝している」

「リカルド氏まで…」


勢いよくエルマーナに抱きつかれ、更に周囲からの言葉に狼狽させられる
何よりも感謝の気持ちを向けられることに慣れていないジークは、どうしていいのか分からなかった
周りを気にしないようにすれば、それはそれで、怪我の痕や先刻殴られた頬が熱を持って痛んだ
どうにかこの空気から抜け出して、せめて一人になりたいと願い始めた時

ふと、ずっと黙りこんでいたスパーダと、目があった



「ジーク」

「なんだ少年」

「悪かった」

「……何が?」

「殴っただろ、本当に悪かった、ごめんな」

「いや、別に痛くないぞあんなの」



それを聞いて、「割と本気で殴ったんだぜ」と、スパーダは顔を歪める
笑っているような、泣いているような、表情だった

ジークにくっついていたエルマーナを引き剥がし、スパーダは彼女の腕を掴んで外へ飛び出す
いきなりすぎる行動に驚いてか、追ってくる者はいなかった


「…いきなり何事だ」

「…ごめん。俺、お前の事信じてなかったんだ」

「そりゃ当然だ。性懲りもなくまた、裏切ったんだから」


「割と本気でな」、先刻のスパーダの台詞を引用して言ったジークは少しだけ安堵した顔をしていた
それはあの雰囲気から解放された事へか、それとも彼が信じないでいてくれた事へなのか
表情の変化に気づいていたスパーダに、どちらかなのか判断がつかなかった


「あの時、俺はお前の事大嫌いになった。死んじまえクソヤローとも思った」

「そうか」

「…相変わらず淡白だな、オイ」

「そうだな」

「でも今は、信じてやれなかったこと、結構後悔してんだぜ」

「だから私は裏切ったんだと何度言えば…」


帽子に隠れて、スパーダの表情は見えなかった
しかしその声色から、彼が本気で後悔していることは窺える
それに気付いたとしても、『淡白』なジークには何もいい言葉が見つけられない
よく分からない言葉が喉のあたりまで湧き上がっては、下っていった


「…スパーダ」

「ん、なんだ?」

「あの、な。ウルカヌスが……ええと、」

「ウルカが、何だ?」

「弟達を頼むって、言ってた」

「…なんだそりゃ」


頬を掻きながら、いびつに作った笑みでジークが言えば、スパーダがぷっと吹き出して笑った
これできっと確執は取れたのだろう
スパーダは自分が治癒天術を使えない事を軽く後悔し、謝罪したのだが
ジークはやはり気にしていないと言って、今度は自然に笑うのだった

数少ないジークの笑顔を、スパーダはしっかりと目に焼きつける
最初に会った時よりも、ずっと人間らしくなっているように思えて、また自然に笑いが込み上げてきた






どんな形であれ、この旅の終わりは近い

それを感じているのかもしれない





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