絶P | ナノ
暴露大会










「……どこに行くつもりだんったんだ、あぁ?」



スパーダが真円の月を背に、低い声でそう呻く
相手を射殺すような視線を正面から受け止め、ジークはゆっくり答えを吐き出した


「どこにでも、行くさ。お前らがいないところになら、どこでも」

「…それで、どうするつもりだ」

「どうもしない。普通に生きて、死ぬ」


あくまで淡々としたその答えに気を悪くしたのか、スパーダはぎりりと歯を食いしばり
溢れる怒りを心の内に抑えつけながら、ジークの胸倉を掴んで引き寄せる
呼吸さえ感じさせる距離で、だが少年はその怒りを言葉にできずにいた
もしそれらを言葉にできてしまったなら、もう二度と止まらなくなってしまいそうで
その点では少し安堵しているとも言える


「ざっけんなよ!テメェ、オレらを裏切った挙句勝手にどっかいくつもりだったのか!?」

「ああそうだ。お前だって裏切り者の顔など見たくはないだろう?」


これは私のささやかな親切心だ、と
口の端を歪め、隻眼を細めて言うジークに、スパーダは頭に血が上る
相手が女だということすらも、好意を持った対象だという事も、瞬間的に忘れ
大きく振り被った拳を、その頬に打ちつけた

バキ、と乾いた音がして、ジークは地面に叩きつけられる
口元に血を滲ませながらも、やはりと言うべきか
ジークは顔色一つ変えることなく、赤の瞳でスパーダを見つめ返すだけだった


「気は済んだか。なら退けろ、お前に使う時間が勿体ない」


「ッテメェ…!」





「ベルフォルマ、やめろ」



再び振り上げられた拳を、腕を掴むことによって止めたのは
いつの間にかその背後に立っていた、リカルドだった

彼はぐっと力を込めてスパーダの腕を引き、強制的にジークの上から退かす
怒りによってすぐ傍まで近づいていた気配にすら気付くことのできなかった少年は、荒くなった呼吸を整えながら、上体を擡げるジークを見下ろした
口の中に溜まった血を、無表情のままで地面に吐き出すジークは、まるで何事もなかったかのように、服に着いた土埃を払う

砂漠に囲まれているサニア村の地面は、細かい砂が多く中々落ちないようだった


「ジーク」

「リカルド氏か助かった。それじゃあ私はこれでぐぇっ」


足早に立ち去ろうとしたのだがそれは叶わず
ジークはリカルドに襟首を掴まれて、また足を止めることとなってしまう
見れば、その場にはスパーダとリカルドだけではなく
ルカにイリア、アンジュやエルマーナまでもがそこに、いた

皆それぞれに険しい顔や、心配そうな表情を浮かべていたり、それぞれだが
(リカルドによって)逃げ出すことの許されないジークは天術を使ってでも逃げ出したい気分になった

(公開処刑かこれは……)


「あの、ジーク、…」

「ジークあんた、あたしの言いたい事分かってんでしょうね?」

「ジーク君……」

「ジーク兄ちゃんっ」


呼ぶ声が、物理的に痛く感じた
きっと、天空城でのルカの気持ちはこのような感じだったのだろう
そして彼らの反応を見る限りでは、リカルドはグリゴリの里でのことを話していないようだった
その方がまだ、気持が楽でいられるように彼女は思う


「皆、聞け」


再びスパーダが食って掛かろうとしていた瞬間、リカルドが口を開く
ジークは何かとても嫌な予感を感じた
案の定、と言うべきか、リカルドは彼女にとって不利益極まりない情報を流し始める


「グリゴリの里を脱出した時、すぐにガードルの追撃を受ける事がなかったのは」

「ちょ、待てリカルド氏落ちつけ落ちついて話し合えば人類皆兄弟分かり合えるはずだ…っ!」


じたじたと手足をばたつかせリカルドの言動を何とか止めようとするジークだが、襟首を掴まれているために届かず、効果はなかった
当の本人は涼しい顔で、ルカ達が知ることのない真実を、語ろうとしている


「ジークがガードルの足止めをしていた」

「やめ…っリカルド氏…!」

「俺達が無事に船に乗れたのは、こいつが里に残ったからだ」

「やめろ………っ」

「本来ならば俺達は、こいつに、ジークに礼を言わなければならない」

「……クソが…」


止める事は叶わず、申し訳程度に悪態を零して舌打ちするジーク
顔を逸らしているため彼女には見えなかったのだが
ルカ達は皆一様に、酷く驚いた顔をしていた

中でも一番、先刻ジークに怒りと拳をぶつけたばかりのスパーダが
目を見開き誰よりも驚いた表情を、浮かべていた


「………おいリカルド…それ、マジで言ってんのか…?」

「ちが」
「事実だ。俺は口止めをされていたが、もうその必要もないだろう」


ジークの否定を遮り、リカルドは頷く
と、同時に掴んでいた手を離し、ジークは自由の身となった
逃げ出す事もできたのかもしれない
だがどうしても、一様に彼女を見る視線が、その場に縫い止めているような気がして

ジークは一歩を、踏み出す事ができなかった



「ああ、くそ。だから会いたくなかったんだ…」



もう一度悪態を吐いてみたところで、一同はしっかりとリカルドの台詞を聞いてしまっている
夜という静寂以上に、全員の無言の方が、どこまでも痛かった




「…ご近所迷惑だから、中へ入りましょう」


アンジュの言葉が、やっとその場の空気を動かし始める
当然、ジークもリカルドとイリアに引き摺られていった
その表情はどこまでも暗く、異能者研究所に連れて行かれる時の方がまだマシだったように思われる





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