絶P | ナノ
呼び戻す聲





ジークを発見したルカ達はすぐさま医者へと運んだ
だが彼の容態を診た時の医者の反応は、顔を顰めながら「これは酷い」の一言
一息つく間もなく奥の部屋へと運ばれて、残された一同は立ち尽くす他なかった

ひとりの人間からあんなに血が出るのは初めて見た
元々顔色の悪い少年があそこまで顔色を蒼白にさせているのを初めて見た

ジークが目を閉じたまま動かない所は初めて見た


そんな少年を見て彼らが脳裏に過らせたのは「死」の一文字
いくら転生者だとしても、それは平等に訪れるものなのだから

殺しても死ななそうなジークが死んでしまったら、どうするのか
リカルドがそんな話題を出したら、主にイリアやルカが彼を責めた
だが遺髪や遺品を送るにしても、誰もその先を知らないし、故郷すらわからない
必然的に訪れたのは沈黙で、その間全く口をきかなかったのは、スパーダだけ
少年は帽子を深く被ったまま、両手を強く握り締めて、誰とも目を合わせようとはしなかった
















「うぁあああああああああああああああ!!」


ウルカの絶叫が戦場に響き渡る
駆けつけて、その場に膝をついた時には、もう
ゲイボルグは砕け散って、さらさらと残された破片が風に浚われていった
その破片を掻き集めて、抱き締めて、嗚咽を上げる少年は
既に戦意を失っているどころか、もう二度と立ち上がれそうもないくらいの状態だった

アスラが無言のまま、デュランダルの切っ先で細い顎を持ち上げる
紅玉の瞳には光の一筋も差していない、まるで、抜け殻のようにすら見えた
眉間を狭くしたアスラは剣を収め、くるりと背を向ける
傍にいた部下に、ウルカを連行するように命令を下した


「アスラ……恩に着る」

「いいや…俺は何もしていないさ」


アスラは戦友から聞いたことがあった
親であるバルカンの事、そしてよく話相手になってくれたウルカの事を
聞く限りでは殺戮を好むような狂った意識の持ち主ではないように思えたのだけど
彼は何故、どのような経緯でゲイボルグの使い手となったのか

その答えを聞こうにも、センサスの天空上に連行されたウルカは
一言も話さず、動かず、何も食べない、それこそ本物の人形のようにすらなってしまって
稀に気を利かせたアスラがデュランダルを部屋に置き、何を呼び掛けてみたところで
やはり反応も何も見せない、抜け殻と化してしまった


それほどまでに、ゲイボルグという槍は重要な存在だったのか
ただ呼吸だけを繰り返すウルカを見ていても、何も分からず仕舞いで



そこでウルカという鉱石の神の心は、壊れてしまった













そんな光景は何度だって夢に見てきた
眠れば眠る度、自分のものであってそうではない記憶が蘇った
それくらいだったらまだ我慢できたかもしれない、けれど


最初の記憶は誰かの腕の中から見上げた雪の降る真っ白な空
次の記憶は揺れる馬車の中から見る少年と老人が剣の稽古をしている場面
それから、暑くて熱い土の上で、泥水を啜って命を繋ぐ自分
顔の半分を蝕む痛みと、いつの間にか左側しか無くなっていた視界
知り合った美しい少女と結託し密林の一角で土砂崩れを起こして、そんな暮らしから何とか逃れたのはいつのことだったろう


その頃から、眠る度に私の夢を悪夢が支配しはじめた
どうしてもそれが嫌で嫌で怖くて、私は眠ることをやめた

最後に呼ばれたのがあんまり昔すぎたので、思い出すのを諦めて自分で名前をつけることにした
生きるためにはいろんな事が足りなくて、その少女から言葉を教えてもらった
異能の所為か最初から戦い方は知っていて、最初は槍を使ったりしてもいたけど持ち運びが不便だったからやめた
ギルドで生計を立て始めた頃に、丁度よさそうなナイフを作ってもらって、よく手に馴染んだからそれを今はつかっている



幸せな記憶、といったら
今の私ではなく、前世で、ウルカと呼ばれていた頃の記憶だけ、で
嫌なこともたくさんあったけど、それらは確かに私の支えになっていた
少なくとも現世の夢よりも、前世の夢を見ている方が楽しかった




けど、そんな生活もそろそろ終幕が近いのかもしれない
心と体が、段々と離れていくのが何となく分かる
真っ暗で、真っ暗で、何も見えない、このまま闇に溶けてしまえればいい


ひとつ心残りがあるとすれば、前世の相棒、ゲイボルグ、いや、ハスタとの約束で
例えばこれがウルカの見ている夢で、手を伸ばせばそこにはゲイボルグがいたりしないかな、などと
ありもしない幻想を求めて、手を伸べてみた、そうしたら
私の手を、誰かが握って、そのまま意識を引っ張り上げてくれた



(ジーク)


余計なことをするな


(ジーク)


このまま寝かせてくれ


(ジーク)



煩いな、私はお前を裏切ったんだ、もう放っておいてくれ



「まったく、早く起きんか馬鹿弟子が」


あ、すいません、お師匠、もう少しだけ


「輪廻の輪から外れて見守っておればこれだからお前は……弟を泣かせる阿呆がどこにいるというのだ」


すいません、すいませんってばお師匠
僕はもう大丈夫です、から、尻を蹴らないでくださいよ
わかってます、わかってますってば、私はいつだって貴方の言いつけを守ってきたでしょう


「ふん、分かればいいのだ。だから早く、行ってこい。お前が輪廻の輪を外れ私のもとへ来るには早すぎる…」


そう、でしょうか


「ああそうに決まっている。私は息子が死ぬのはもう見たくないのだ……」


―――わかり、ました。行ってきます、お師匠…父上


「早く行け、もうここには来るんじゃないぞ、ウルカヌス」


はい、心得ました、お師匠
まだ私を呼ぶ手のかかる弟のところへ、戻ります
いつか貴方の所へ行く時がくるでしょうけど、その時はもう追い返さないでくださいね




(ジーク)






まったく、煩い奴だ
何でそんなに泣きそうな声で私を呼ぶんだ、お前は

あんまりうるさいので、私は渋々生き長らえることにした
そうでもしなきゃこの声はずっと止まないだろうし、それに
この手を掴む力加減が、それはもう半端なく強くて、いい加減一発殴ってやりたいと思った、から

でもまぁ、それより先に私が殴られる確率の方が高い
だって相手は、あのスパーダ・ベルフォルマという少年だ
前科持ちである私に、甘くしてくれる可能性はほぼ無いと考えた方がいいだろう



(これはまたいつかのように怒られる準備をしておいた方がいいかもしれない)






[] | []

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -