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神と交える一戦







「地に伏す愚かな贄を喰らい尽くせ ―――グランドダッシャー!」


ただでさえ神の力を躊躇いなく行使してくるというのに
手加減も容赦もなく上級天術を放ってくるウルカに近づくことができなければ、勝つことは難しい
そう判断したルカ達は、それぞれ二組に分散して相手と戦うことにした
ハスタには、ルカ、アンジュ、リカルドが
ウルカには、スパーダ、イリア、エルマーナが

バランスよく戦力を分けたはいいのだが、やはりというべきか
神の力は計り知れないほどのものだった


辛うじて襲い来る衝撃から天術で身を守り、素早さには定評のあるスパーダが先駆けてウルカの懐へ飛び込む
ジークと同じ赤い色の双眸と、目が合った


「テメ……っ目ェ覚ましやがれ!!」

「何のことです、私は正気ですよ」


激昂するスパーダの、しかし躊躇いが混じる斬戟を、彼は岩でできた剣で受け止める
流石鉱石の神と言ったところか、岩を使役することなど容易いことのようだ
押し切られそうになったスパーダは舌打ちと共に一旦後退し、即座に追い打ちの天術を唱えようとしたが遮られる
エルマーナの光速の拳が、残像を残すほどの打撃を繰り出す
ウルカはそれを天術、ストーンウォールで退け、ついでにイリアの放った銃弾を防ぐ壁にもなった


「なぁ、ジーク兄ちゃん!何でなん!?」

「そーよ!あんたあたしに言ったじゃない、前世に縛られるなって!」


エルマーナとイリアの悲痛な叫びにも顔色一つ変えないウルカ
決して非情な少年であるわけではなく、彼はただ、一途なだけなのだ
自らの果たすべき責任を背負い、そして、奇しくも来世にまで持ち越してしまった
元は本当に優しい少年神で、熱心に鍛冶を学んでいたことを、前世で見たスパーダは知っていた


「うるさい。僕には関係ない……もう絶対に…コロサセナイ!」


彼は完全に自分という存在を見失っていた
その状態はイリアやスパーダもよく知っている
ルカをアスラと知り襲いかかってきた転生者と、よく似ていたから

しかしウルカを突き動かしているのは、誰かに対する恨みや憎しみ、というよりも
あまりに強すぎる後悔のように、見て取れた



「…ッか野郎が…!」


「無駄だよ…ストーンザッパー!」

「馬鹿バカ、ジークのバカ!アサルトバレット!」


飛んできた石の飛礫を、イリアの放つ銃弾が打ち砕く
砕けた石の破片を目眩ましに、それを掻い潜ってきたエルマーナの拳が吼える


「目ェ覚ましてぇな兄ちゃんっ…獅子戦吼やァ!」

「く、っ」


放たれた闘気を受け、岩でできた剣が砕け散った
それでも残った柄で攻撃を加えようと振るえば、彼女は持ち前の素早しこさで後ろへ下がる
剣で受け切れなかった闘気を食らったウルカは小さく呻き、追撃を加えようと駆けて来るスパーダをキッと見据えた
詠唱は間に合わない、詠唱が必要ない下級天術では彼を退けることが出来ない、ならば

手に残った武器で間合を取って、体勢を立て直すしかない



「僕に近づかないでくださいデュランダル!」


「……オレはデュランダルじゃねーよ」



だがそれは、致命的な判断ミスで




「オレは、スパーダだ」




横薙ぎの攻撃を身を低くすることで躱したスパーダは
そのまま剣を振るう事もできたのだがそうはせず、双剣の片方を逆手に持ち
剣の柄を、ウルカの鳩尾へと強く打ち付けた


「っっ…!」


衝撃に耐えきれず、声も出せなかったウルカはスパーダよりも若干小さな体を前傾させていく
彼は何とか踏み止まろうと足を踏み出すが、ぐらり、その足が地面を踏み締めることはなく、唇が小さく震えた

薄れゆく意識に崩れ落ちそうになった所を、スパーダはそっと受け止めた
イリアとエルマーナは安堵の息を吐く
だがスパーダは、まだ険しい顔をしていた


意識を無くす直前、ウルカが呼んだのは


(ゲイ、ボ ル グ ――)


彼が呼んだのはスパーダではなかった
それは仕方がないことなのかもしれない、今の彼はジークではなく、ウルカとして存在していたのだから
理解していてもスパーダは釈然としない気持ちで、腕の中に収まる前世での『兄』を強く抱きしめた

その体は既にウルカの姿を失って、抱き締められているのは、黒い髪や白い肌を砂埃で汚したジークだった

スパーダは気付かなかった
意識を失っているにも拘らずジークの呼吸が早いこと
そして、尋常じゃないほど体温が高いことに



(ふと目をやれば、朱を舞わせる紅の男が膝を付くところだった)
(あれ、何だこの展開、と呟く殺人鬼は、意識のないジークを見て、悲しげに眼を細めた)


(口元だけは笑みを模っていたけれど)




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