絶P | ナノ
目覚めの鉱石神






惨状。その荒野はそう言い表わすのが妥当だった。辺りにはセンサスの兵士の死体が転がっている。そこは戦場なのだから、死体があるのはおかしくないことだし、アスラはオレ、いや、デュランダルを使ってもっとたくさんの死体を積み上げてきた。それが戦争ってやつだ。けど、ここら一帯にある死体は尋常じゃない死に様だった。全部が全部、頭から足まで真っ二つ。そんな惨劇を生み出したのはオレの、オレとアスラの目の前にいる巨大な槍。そして、その使い手。魔槍ゲイボルグと、鉱石の神、ウルカヌス。「ヒィヒヒヒヒ!強い、強いなァ。いいぜ、強い奴は好物だ!」魔槍は吼える。心が毀れた哄笑を上げて。もともと毀れていたわけではないと、親父、バルカンも言っていたし人伝にそんな話を聞く。バルカンに鋳造された、最強の槍だったとも聞いた。だが高名な戦士の手を渡り歩き、際限なく血を吸ううちに、毀れた。そして、鋼鉄の防具を紙のように貫く快感は使い手の精神をも蝕み、ゲイボルグとその使い手は敵味方の区別無く命を刈り取り続ける。そんな話を聞いたのはデュランダルがまだバルカンの元にある頃、ウルカから聞いた。そのウルカは今、少年の体躯に釣り合わない巨大な槍を片手に、話を聞いたその頃と比べると随分と冷めた目をしていた。物腰も大分違っているように思える。アイツも毀れてしまったのだろうか。だがどうしてかそんな感じはしない。「お前の血、吸い尽くしてやる!ヒャーッヒャッヒャッヒャ!行くぜェ兄貴!」「うん、行こう、ゲイボルグ」その時見せた微笑は、いつかオレに見せたものと同じ。何かを覚悟した、高潔な笑みだった。そんな顔を出来る奴が、毀れているはずなどない。デュランダルは内心で戸惑いを感じていたが、アスラに振るわれるがままゲイボルグからの攻撃を防ぐ。「センサスの王、アスラ。やっぱり一筋縄じゃあいかないか」怒濤の攻撃の手を一旦止め、ウルカは不敵な笑みを浮かべる。それはデュランダルが見たことのない表情。もしかするとこっちが素なのかもしれない。一瞬、そいつの顔が誰かとだぶった。一瞬すぎて分からない。「フン、貴様はその槍と違って正常のようだな。…噂によると、鍛冶師バルカンの息子兼弟子であったと聞くが?」ウルカは答えない。ただ静かな微笑が答えとなった。「……奴の名は、ウルカ。我の生みの親、バルカンに拾われた鉱石の神で、我の、兄だ」代わりにデュランダルがそう答える、アスラが押し黙って片手のデュランダルを見るも、落雷のような速度で迫撃してきたゲイボルグの刺突をすんでのところでいなした。「オイオイ、遅れをとるなよ相棒サン?」「もう、ゲイボルグは厳しいなぁ」口調は少年らしいもので、少し困っているように笑う顔だけを見れば、何も恐ろしいことはないのに、彼の小さな手にある魔槍がその全てを損なっている。それから幾度となく打ち合った。流石のウルカも息を切らし、しかし歴戦の勝者アスラは疲労の断片も見せない。ゲイボルグも焦りを覚えているらしく、絶笑を放つ。「楯を貫き、鎧を砕き、相手の魂を裂く!俺はそのためだけに作られた最強の殺人兵器だ!殺すためだけに作られたこの俺が、そうでない奴に負けるはずが―――っ!!」槍を振り翳し飛びかかってくる最中の事。魔槍の言葉を聞いたウルカは、僅かに顔を歪めた。悲しそうに、悲しそうに、そしてそれが隙を生み、アスラの勝機を生む。あっ、と、ウルカが声を上げ、その手から些か大きすぎる武器が弾かれる。彼は強く地面に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべていた。ほぼ無力な子供と化した少年に目を向けることなく、アスラはゲイボルグへと向き直る。彼には自信があるのだ、長年の経験、デュランダルと共に戦場をかけた場数。魔槍と魔剣、同じくバルカンに鋳造された武器同士。ならば、最強の使い手であるアスラが振るうデュランダルが、ゲイボルグに負けることなどないと、彼はそう確信してならない。「ヒャ、ヒャハハハハ!まだだ、まだ終わっちゃいねぇ、血を吸い足りねェ!」「貴様のような外道の相手は些か腹にもたれる。とっとと死ね…デュランダル、とどめだ!」アスラがデュランダルを正眼に構えた。「…魂すら切り裂いて、転生の輪廻から外してくれる」「ヌかせぇ!てめーこそ、真っ二つにしてやる!」そこでやっと倒れていたウルカが立ち上がる。吼えた魔槍は使い手の手に収まろうとはせず、自らの穂先で直線に突きかかってきた。「待って、ゲイボルグッ!!」少年の悲痛な叫びは弟に届くことはなく。魔剣と魔槍が、激突した。






「うぁあああああああああああああああ!!」
「うぁあああああああああああああああ!!」







記憶上の悲鳴と、現実での悲鳴が重なる
その声で、一同の意識は前世から現世へと引き戻された
誰の悲鳴だったのだろう、ただ、先刻まで元気そうだったジークがだらりと項垂れていた

そちらにも注意を払いながら、スパーダが一歩踏み出す
記憶の場があった位置の中心で膝をついていたハスタが立ち上がり、槍を担いだ
スパーダが彼の前世、呪われた魔槍の名を口にする、「ゲイボルグ、」と


「えーっと、どなた様?あ、ひょっとして、デュランダ…何とかさん?…君も、バルカンとウルカの地に惹かれて来たんだろ、ん〜?さすがご同族、同輩、同根だな」

「黙れ!耳が腐るぜ!オレを同族なんて呼ぶなっ」

「再会を喜ぶオレ。でもすぐに悲しみがやってくるのでした」


全然喜んでいるようにも見えないし、全然悲しんでいるようにも見えないハスタ
彼はスパーダに対して真っ直ぐ、槍の穂先を向ける
何故なら前世で敵同士、殺し合う宿命なのです、と、相変わらずふざけた調子を崩さずに


「宿命…。そうだな、バルカンの後始末は息子のオレの宿命ってヤツだ」


スパーダは気になる事があるのか、ちらりとジークを見る
しかし彼は倒れていた時のように全く動かず、だが、呼吸に合わせて薄い肩が上下しているのだけはわかった


「そういや、なんだっけ?今のお前の名前。えっと、『できそこない』?武器のクセに命のやりとりを楽しめない…っていうのは立派な病気だな」

「魔槍ゲイボルグ…。オレがバルカンの名にかけて貴様をへし折ってやるぜ!」

「リカルド氏のお蔭様でオレは本当の自分に気が付いたんだよ!渋皮がペロリとめくれて大人になったってところさ。やっぱオレが血を欲するのは理由があったってワケだ」


二人のやり取りを渋い顔で眺めながら、イリアが呟く
「こいつも転生者だなんて」、その場にいた誰もが思ったことだ
ハスタの言動を聞くに、先ほど話していたリカルドの仮説は当たってしまっていたらしい
リカルドは苛立ち、小さく舌打ちした


「その後もお蔭様で、ブタバルド氏にスカウトされ、毎日流血三昧でさ」


「ブタバルド…って、ひょっとしてオズバルド?」

「ブタバルド!いや、何とかバルドだったような…。ま、そんな事は今度でいいや」


オズバルドと聞いて思い出すのは、以前異能者研究所でルカやイリア、スパーダやジークの前に姿を現したやや肥満体形で中年の男
妙な試験を受けさせたかと思うと戦場へと送り出す、そんな男にスカウトされたというハスタは雇い主の事を心底どうでもよさそうに切り捨てた
ぐるぐると肩を回し、準備運動らしき動きをしたハスタは改めて槍の切っ先をルカ達の方へと向ける


「とーにかくだ。ほら、大地の声に耳を澄ませてみると、聞こえて来ないかい?『オマエラ ヲ コロセ』ってな!」


「…もう貴様の話は聞き飽きた」

「なんか、こいつシンドイ」

「そうね、エル。相手しちゃ駄目よ?知性が低下しかねないから」

「スパーダ。さあ、やろう」

「ああ、行こうぜ」


一行全員に酷い言われようのハスタ、なのだが、本人はいたって気にしていない様子
槍を構え準備万端のハスタと正面から相対し、スパーダも腰の双剣を抜いた



「さあ、来いよ!殺人鬼!オレ達を生み出したバルカンに、この戦いを捧げようぜ」


「ならオレは、兄さんにお前の死に様を捧げよう。行くんだぷー」



二人の台詞を皮切りに、一対複数の戦闘が始まる、はずだった






「グレイブ」






早速、速攻とばかりに双剣を振るおうとするスパーダの前で
大剣をすらりと抜き放ったルカの前で
一対の銃の安全装置を外したイリアの前で
天術の詠唱を始めようとしていたアンジュの前で
弾を装填し狙いを定めていたリカルドの前で
両手で拳を作り格闘の構えを取ったエルマーナの前で


突如地面が隆起して、その行く手を塞ぐどころか攻撃を加えた


咄嗟に慌てて飛びのいた彼らが見たのは、俄かには信じられない光景



「させないよ……もう、僕の半身を殺させない」



ハスタの前に立ちはだかっているのは、先程まで力無く項垂れていたジーク
その声は若干掠れていて、以前彼自身の口から聞いたスパーダは瞬時に理解できた
記憶の終わりと同時に絹を裂くような叫びを上げたのは、ジークだったのだと

慟哭のような絶叫を上げた理由はただ一つ
それは、今しがた彼自信がが口にした言の葉


「やっぱり、お前は…お前の前世は…!」


「そうさ、私はウルカヌス。バルカンの息子で弟子、デュランダルの兄。そしてゲイボルグの最期の相棒だよ」


「え…そんな……ジークが、あのウルカヌスの転生者…?」


ルカが驚きの声を上げるのも無理はない
イリアやアンジュ、リカルドにエルマーナも驚きを隠せず動揺していた



「もう絶対に、繰り返させやしないんだ」



ジークの姿は幾重にもぶれて、ルカ達の眼にはその姿がウルカとして映った
褐色の腕が、こちらへと突き出され、唇は詠唱の呪文を紡ぎ出している
どんな形であろうと覚醒し神の力を手に入れた、しかも直前まで仲間だった人物と満足に戦えるのだろうか
立ちすくむ一同を余所に、背後で静かに悪魔のような笑みを湛えているハスタを振り向くジーク


「これからは、また一緒に…」

「もちろん。願ったり叶ったりだポン」

「僕だけはずっと君の味方でいるって決めたんだ……行くよ、アースクエイク!!」


いきなり大技である天術を放ってくるジーク、いや、ウルカに、槍を手にして襲いかかってくるハスタの連携
不規則に隆起を繰り返す地面、状況はどう考えても不利で、迷っている暇は、与えられないようだった




(やはり結局、前世の因縁は断ち切れなかったのだ)




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