絶P | ナノ
三度目の正直(記憶の場的な意味で)







ジークは動かない
殺人鬼の足元にうつ伏せで倒れたまま、微動だにしない
まさかもう、という、嫌な考えが頭に過った者が数人いた



「貴様、何の冗談だ。死に損なって、おかしくなったか?」



リカルドが低く静かな声で言う
気のせいかもしれないが、その声音には怒気が含まれているかのようにも思えた
対して、ハスタは槍を担いだままゆらゆらと身体を左右に揺らす


「やあやあ、幸いこの通り全力で普通でゴザイますとも。さてさて、後ろの方々はご家族?確かに目元がソックリですピョロよ?」


やはりハスタの基準は全てにおいて常人とは百八十度ほどずれているらしい
やっぱり会話が出来る相手じゃない、と、イリアが渋面を作って足を踏み鳴らした


「あんたねぇ、一回会ってるじゃん!ホラ、西の戦場で!」


「西なっ。太陽が昇る方向じゃろ?」


勢いに飲まれることなく、ハスタはのったりとした口調で答える
あまりに突っ込みどころが多すぎて誰も口にしないが、一応訂正しておくとするならば
間違ってはいけない、太陽が昇る方向は東だ

ふざけた態勢を一度整え、ハスタは槍を担ぎなおす
溶岩よりも真っ赤な瞳がにたりと細められた


「とまあ、小粋なジョークタイムはここまでにしてだァ。お前らの鼻に浮いた脂を見ると一時欲求を満たしたくなったポン。さあ、楽しもうぜ?」


エンジョイ!と下卑たポーズで槍を構える彼を見て、アンジュがあからさまに顔を顰める
普段の彼女からは考えられないような冷めた目で、倒れているジークへと視線をやった


「なんて下品な方…。想像外ね。それより、ジーク君に何をしたんです?」

「そこの娘さん、想像力が足りんな。そしてオレはこの子に何もしてマセンと誓います」


「うぅ……、そいつの言うとおりだぞ、アンジュ。私は転んだだけさ。それより一次欲求って何だ、ハスタ?」


ハスタの言葉を頭から疑っていたルカ達の目が一斉に集まる中、ジークは頭に手を添えて体を起こした
顔や服が砂埃で汚れているのと、少し肌を擦り剥いているくらいで、傷は見当たらない、どうやら本当に転んだだけのようで
だったら何故呼びかけに応えなかったんだという突っ込みは口に出すのを我慢し
その様子を確認した仲間たちは、口には出さずとも内心ほっとしていた

普段の行いからか、疑いをかけられていたハスタはそんなことを気にせずに顔を輝かせる


「流石兄さん、よくぞ聞いてくれました!正解は、食欲と海水浴と殺人欲。そういうワケで、全部満たしていいデスか?イイデスね?」


正常とはかけ離れた言葉の羅列に、頭が痛くなってくる一行
だがハスタは、その無駄に高いテンションとは裏腹に、腰を屈めてジークににっこり笑いかける
ジークは立ち上がらず、心なしかいつもよりもボーっとした虚ろな瞳で、ハスタを見返した

先頭に立っていたリカルドが、手に持ったライフルでとんとんと肩を叩く
蒼い双眸には、鋭い闘志が宿っていた


「俺とした事が…。以前コイツの脳天に弾丸をブチ込むのを忘れてしまっていた。今度は手抜かり無いようにせんとな。さあ、そのよく動く口、永久に動かんようにしてくれる」


「いやん」


中腰だったハスタは銃口を向けられると、ぬらり、軟体動物を思わせる動きで後転する
その動きに、リカルドは引き金を引くタイミングを、ジークはそれを止めるタイミングを逸してしまった
「こいつ、場に入りよったでぇ?」とエルマーナが言う、そう、ハスタは既に円陣の中心に立っていた



「きゅぴーん」



その声と共に、記憶の回復現象が一同を飲みこみ、視界は一瞬白に包まれた

直前、スパーダは垣間見る
座り込んでいたジークが、泣きそうな顔をして頭を抱えているのを
それは本当に一瞬だったので、事実かどうかわからない、もしかしたら目の錯覚なのかもしれない


そして、次の瞬間には、何となく憶えのある荒野をどこからか見降ろしていて
そこに自分の前世での姿と、ルカの前世を発見し、これが前世の記憶であることを悟った



相対していたのは、一本の巨大な槍と、そして、





(ゲイボルグ、と、アイツは ―――、)


(ああそうだ、これが僕の過ちか)





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