絶P | ナノ
インスタントメモリーズ




誰かがオレを呼ぶ。呼ぶ声が二つ聞こえる。「さあ、お前に魂の息吹を。名はデュランダル。この名をその刀身に刻め」―――デュランダル。そうだ、オレの前世の名前。意識を持ったデュランダルは声を発する。「こ こ は どこだ、お前たちは誰だ…」「ここは、私の鍛冶場だ」打答えた男はバルカンと名乗った。何だ、前世の俺の親父か。それから、バルカンの傍らに一人のガキ。今の俺と同じくらいの年だろうか、褐色の肌と尖った耳、何となくこいつが鉱石の神なんだってことが理解できた。「初めまして、私はウルカ。ウルカヌスです。これでもバルカンの弟子で…ええと、彼が親ならば私は…貴方の兄でしょうか。少々おこがましいかもしれませんが」ウルカヌス。いやになるくらい懐かしい名前が馴染む。二人の名を記憶に刻んだデュランダルが単刀直入に何の為に作られたかを尋ねた。「多くの者を活かすため。だが、それも主次第か」強い意志を感じさせる言葉、だが、すぐ傍のウルカが息を飲むのが分かった。「我は剣。武具に過ぎぬ我が、多くの者を活かすため、だと?」「ああ、そうとも。そう願って、私はお前を作った」バルカンの目が細められる。少し悲しそうだった。「一つ、話をしよう…我が息子よ。お前の前に一本の槍を作った」この世界で最も強い槍になるよう、どんなものでも貫くように願ったと。だがそれは間違いだったのだそうだ。デュランダルは何故武器に強さを求めてはいけないのかを問いかける。オレの、デュランダルの前に造られた槍は強さの本質を誤解して。バルカンが考える強さとは正反対の強さを手に入れた。バルカンはオレに言う。「強さ」とは制する事。人を制し場を制し、そして時を制する。この影響力を「強さ」という、と。それでも武器のデュランダルにはわからなかった。楯を貫き、鎧を砕き、魂を裂く。それが武具の本質だと考えていた。バルカンも、それが武具の本質として正しいことは認めていた。「だが、それは武具の優劣に過ぎん。使い手には関係無い事」デュランダルは黙り込む。対して、生みの親は続ける。「誤った「強さ」を求めた槍は狂気に目覚めた。その威力に使い手を血に酔わせ、敵味方の区別無く命を奪うようになる。あの槍は過ちの産物。「強さ」を履き違えた、愚かな鍛冶師の愚かな作品なのだ」独白の最中、ウルカの顔はどんどん曇っていった。今にも泣きそうな、そんな顔。なぁ、何が悲しいんだよお前。オレの思考は反映されず、記憶の中のデュランダルがその槍の名を尋ねる。答えたのはバルカンではなく、ウルカだった。「ゲイボルグ。…私の大事な、弟です」あいつは無理に笑っているようにしか見えない。あれ、こいつ、誰かに似てねぇか。オレの気のせいか。他人の空似なんてよくある話だけど、なァ、兄貴。あんたオレの兄貴なんだろ、だったら、現世の俺の兄貴達とは違って、オレを大事にしてくれるか。あー、何考えてんだオレ、柄でもねぇっつの。ほら、誰か呼んでやがる。この声は、ルカじゃねー?








「スパーダ、大丈夫?」


ルカがスパーダを覗き込む
火山は酷く蒸し暑く、イリアは癇癪を起し、アンジュは壊れてリカルドに当たり散らし
その巻き添えを食らったエルマーナが説教をうけているところだった、聖女は余程蒸し暑いのが嫌いらしい


「ゲイボルグ……」

「え?」

「いや、ちょっとな。色々思い返してただけさ。それよりオレより大丈夫じゃなさそうなヤツがいるぜ」


スパーダが顎で指した先には、ぼーっと上を見て立ち尽くしているジークがいた
隻眼は虚ろで、どこを見ているのかもあまり定かではない
慌てて駆け寄ったルカが声をかけても、反応は薄かった


「ジーク…大丈夫?」

「………ああ、」

「すごく顔色が悪いけど…」

「なつかしい…」


ルカを見もせず、ジークはふらふらと火山の奥へと進んでいく
足取りはおぼつかないもので、見ている側がはらはらするほどのものだった
仕方なしにスパーダが説教中のアンジュを止め、そろそろ奥へ進むようにと促す

火山道は赤い
その赤が、ジークを追って進むスパーダの記憶を呼び覚ましていく

(そうだ、オレは、この熱の中で、)





バルカンがオレに別れを告げた。オレは、デュランダルは、ついにバルカンの手を離れラティオに運ばれることになったと。デュランダルは自らの出番が近いと悟る。バルカンの機嫌は悪いようだった。自分の作った武器が戦場で活躍するというのは鍛冶師の誉れではないかと、デュランダルは言う。「いささか戦いに飽いておる。そして、その戦を飯の種にしている己にうんざりしているのだ」そしてデュランダルは、ラティオとセンサスの戦いの理由を問う。どちらが正しいのか。だが、バルカンの答えは、武具たるお前が考える事ではないとそう言う。切り捨てたわけではなく、それは息子を励ますかのような声音だった。オレはそんなの知らねーけど。「心配するな。お前ほどの名刀、必ず相応しい使い手に辿り着く」「…心待ちにしていよう」そう答えた時、ウルカがその場に入ってきた。「お師匠、ラティオの使いが参りました」バルカンは腰を上げて使いの者へ顔見せに出向く。「では、別れだ。長きに渡るラティオとセンサスの戦い、終結へと導いてくれ」それが、バルカンがデュランダルに向けた最後の言葉。それから、バルカンがオレに話しかけてくることはなかった。ウルカはデュランダルを丁寧に抱える。少しだけ、抱き締められたような気がした。「デュランダル、私の大事な弟。私はあなたを忘れません」儚げに微笑む少年。デュランダルは沈黙を持って応える。何だ、この時、 あいつは何を 、何を覚悟して笑 っ た ?






スパーダはルカの呼びかけによって再び現実へと引き戻される
先刻、以前ハスタと初めて会った気がしないと言った時のことについて聞かれていただろうか
全くもって上の空なスパーダを見て、怪訝そうにしたルカが首を傾げた


「ひょっとして、記憶を思い出したりしてるんじゃないの?」

「…うっせーな」


静かにスパーダがそう言うと、ルカは気まずそうに眉を下げる
思い出していた記憶が嫌なものだったのかもしれない
そんな少年の心境を感じたのか、スパーダはぽん、とルカの頭の上に手を置いた


「そんな気にすんなよ」

「うん…何だか、ここに来てちょくちょくボーっとしてるよね」

「人の事気にしてる場合じゃねーだろ。オラ、お前こそしっかり歩けよ。足がフラついてたぜ」

「この暑さで体力の消耗が激しいよ。でも頑張らないと」


それにみんなも頑張ってるんだし、と、ルカが示す方向ではイリア達が汗を滝のように流しながら歩いている
ニヤリと笑ったスパーダは、ヘコたれたらケツ蹴り上げてやっからな、と軽い脅しをかけて先へ進んだ
ルカは苦笑してその後へと続く

既に二人を追い越していたイリア達の、最後尾にアンジュがいた
彼女は少しは落ち着いたのか、両手で顔を仰ぎながら振り返る


「遅いわよ、二人とも。もうジーク君、ずっと先に行っちゃったわ」

「あいつ…顔色悪いくせに何でこんな暑いとこで元気なのよ」


イリアがげんなりと肩を落として溜息とともに言葉を吐き出す
アンジュの言うとおり、ジークはもう後姿すら見えないところまで進んでいるようだ
たまに落ちている巨大蝙蝠の死骸に刺さったナイフを見るに、ジークが相当進んでいることは確か

そんな時、リカルドも珍しく重々しい溜息を吐く


「あの時、西の戦場でとどめを刺しておけば…」

「ハスタのことか?っつーかリカルド、何であいつを逃がしたんだよ」


スパーダに尋ねられ、リカルドは宙を仰いで話し始める



「俺の銃弾を食らい、奴は膝をついた。その時だ。奴は言ったのだ。『お前、ヒュプノスだろ』とな」

「ハスタも転生者だったって事?」

「ああ、そうらしいな。俺としたことがつい耳を傾けてしまってな…それが油断を生んだ。奴はジークを担いだかと思うと全速力で逃げて行った。あまりの逃げっぷりに追い打ちも忘れてしまっていた」


自らの失態を恥じるようにリカルドが舌打ちする
これまで何度か傭兵として同じ任務に就いた事はあったが、天術を使っているところは見たことがないそうで
考えたくはないが、ハスタはリカルドとの戦闘で転生者として覚醒した可能性もある


「だとしたら、ハスタの暴走は俺の責任、というわけだ」


「なぁなぁ、しつもーん」


はい、とエルマーナが挙手して会話に混ざる
質問を許可されるよりも先に、エルマーナの中で自然と浮かび上がっていたであろう疑問を口にする


「そのハスタっての、どんヤツなん?」

「そうね、わたしも気になっています」


エルマーナとアンジュに聞かれたリカルドは顎に手を当て考え、やがてイリアへと目をやった


「ふむ…、ここは敢えて、アニーミに語ってもらおうか」

「え!ちょっと、何であたしなのよっ」

「いいじゃない、教えてよ」


そう言われると、イリアはキッとアンジュを睨みつける
恐らくこの暑さによるいらつきの分もあるのだろうが、その時の声音は普段の数倍荒かった


「お断り!あんなヤツの事、口にも出したくないっての!言ってる事が意味不明で、凶悪で、会話が通じなくて、フリルが可愛くて、超が付くほどのド変態なヤツなんて!」


イリアに誰かの悪口を言わせると濁流のように止め処ない
アンジュとエルマーナが呆気にとられていると、リカルドが「と、まあ、そういう事だ」と締めた


「んー。何となく分かったわ」


エルマーナが呆れたように言って、アンジュも同意見なのか苦笑してみせる
そんな賑やかな雰囲気を漂わせながらも、ケルム火山の洞窟もついには最奥へと辿り着き

本命は記憶の場、殺人者捕縛はついでなどという決めごとも虚しく
記憶の場とハスタは優先順位もへったくれもない形でルカ達の前に現れた

開けた空間の床には光輝く円陣、その前に槍を担いだハスタが立っていたのだ
彼はルカ達に背を向ける形で、記憶の場をじっと見つめている
洞窟の熱気がハスタの深紅の服を揺らめかせていて、まるで人の形をした炎のようだった



ゆらり、ハスタが振り向く



「コ ン ニ チ ハ。 ココ ハ ケルム火山 デス」



一行は、瞬時に言葉が出てこなかった

先に行ったはずのジークが、ハスタの足元に転がっていたから


「ジークっ、」と咄嗟に呼びかけたスパーダの声に、反応を示すことはない
彼の心の中で、激しい戦意が燃え盛るようにして昂り、相変わらずの笑みを湛えた殺人鬼の青年を睨みつけた


(あ の 野 郎 …… ッ!)





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