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桃色狂気の影










西の国、ガラム

スパーダが言った通り、煙を吹く大きな火山は壮観だった
船の中でルカに火山について教わったというエルマーナが見惚れている
現在レグヌムと敵対しており、戦場で交戦したこともあったのでルカは緊張していたのだが
ガラムは何ということのない、階段の多い普通の街だった(観光地として温泉があるそうだ)

ガラム出身だと言ったリカルドが、このあたりは古の時代から活火山地帯だったのだと説明する
活火山地帯であると同時に、山々は優秀な鉱山でもあり、鉱物の集まる所は必然的に鍛冶師も集まり
更に鍛冶師は優秀な武具を生み出し、それを求める武芸者も集まるのだ
武芸者たちの修行場所として、ガラムの火山は有名らしく、スパーダが目を輝かせていた


「ここは火山が神格化した鍛冶の神信仰でも盛んな所なの…スパーダ君、話は最後まで聞きなさい」


アンジュが信仰についての説明を始めるが、スパーダが興味を失ったように目を逸らす
一喝され、項垂れる少年を余所に彼女は説明を続けた

ガラムは教会様式を独自に変化させ、独特の信仰を発展させていった
火山、火は鍛冶と関わり合いが深いので、教会様式以前から火の神バルカンの信仰があったのだと


「バルカン…、鍛冶の神…」

「ええ、それから…鉱石の神への信仰もあるようね」


鍛冶とは、火と、そして鉱石があってこそ成り立つもので
火山に鉱山、ガラムを表すその二つを丁度よく持った神が二人、いた


「鉱石の神…?」

「本にも書いてあったわ。確か名前は、」


 べしゃ


彼女の言葉を遮って、スパーダにとって聞き覚えのあるような音が聞こえた
発生源は、イリアとエルマーナとコーダがガラムの食べ物談義をしていたすぐ傍
見れば、潰れた蛙のように、ジークがうつ伏せに倒れていた


「うわ、ジーク兄ちゃんどうしたん!?」

「腹が減ったんじゃないのか、しかし」

「大事ない」

「って、あんた鼻血出てんじゃないのよ」

「…顔面を強打しただけだ、大事ない」


ごしごしと袖で鼻を擦りながら、ジークは半眼で受け答えする
半ば呆れたいくつかの視線を真正面から受け止め、彼はだが、と前置きの後でいくらか核心めいたことを口にした


「何だか街の様子がおかしくないか?」


言われてみれば、と仲間たちは嫌に納得する
大きな町であるにもかかわらず人通りは少なく、窓も閉め切られている
人影はほとんどないのに、それでもピリピリとした緊迫気味な雰囲気は肌を通して伝わってきた

何があったのか測りかねる一行だが、市街地に入ればすぐに兵士と出会うことができて
兵士は厳しい顔をして、彼らにこう言った


「あんた達、余所者だな?悪いことは言わん、さっさと街を出た方がいい。聖域に殺人鬼が踏み込んだんだ」


殺人鬼という単語に眉を顰めたルカに、兵士は更に続ける


「戦場を流れ歩く最強の傭兵で、名をハスタというらしい」


ルカの背後で、リカルドが忌々しげに舌打ちするのが聞こえた
ついでに、イリアが「うわぁ」と心底嫌そうな声を上げたのも耳に入った

ハスタは街の守護神を奉る神官を惨殺し、単身ケルム火山に乗り込んでいったのだという
途中、兵士や一般人を見境なく血祭りに上げたのだと、兵士は身震いした
ケルム火山は鍛冶の神を奉る聖域で一般人の立ち入りは許されていなかった
だがルカ達は町長に妥当ハスタを申し出て、それと引き替えに火山への立ち入り許可を取り付けた
火山には洞窟があるらしいので、目的の記憶の場はおそらくそこに存在する



交換条件を考案した本人、アンジュはケルム火山突入の前に一同に確認した


「優先順位を忘れないでね、本命は記憶の場。殺人者捕縛はついで…聖域に立ち入るための方便よ。ハスタっていうのは最強の傭兵で、誰も勝てない相手なんでしょ?だとしたらわたし達が討ちもらしても誰も責めないと思うし」

「おわぁ、アンジュ姉ちゃん結構香ばしいねんなぁ」

「さすが俺の雇い主だな。海千山千の教会関係者だけのことはある」

「ええ、正直だけじゃ生きていけませんから」


清楚に笑ってみせるアンジュはやはり世渡りがどこまでも上手い
感心した一同は皆首を縦に振り、異論を挙げることもなかった
だが万が一、例の殺人鬼と鉢合わせる可能性も十分にあり得るので、準備は万端にしておいた方がいい
というわけで、ライフルの手入れをしていたリカルドが、思い出したようにジークに声をかけた


「そう言えば、ジーク。その銃は使わないのか?」

「…これか?今までに一度も使ったことがないな」


さらりと宝の持ち腐れを告白して、ジークはリカルドにその銃を投げて寄越した
手入れはある程度されているらしくいつでも使えそうだ、見立てによればそれは四十四口径のマグナム
俗にデザートイーグルと呼ばれる自動式の拳銃だ


「宝の持ち腐れ、だな」

「使う予定は一度しかない。まぁ予定は未定ともいうし、多分ないと思う」


なら何故持っているんだという妥当な疑問を飲みこんで、リカルドは彼に拳銃を返す
使わないという割に、ジークは慣れた手つきで掘るスターに銃を仕舞い込んだ

そこに駆け込んできたのはエルマーナ、彼女は準備だと言ってコーダと共に腹ごしらえをしてきたそうだ
エルマーナは、ふとジークが手に持っていたものを見て首を傾げる


「なぁ兄ちゃん、それ何?」

「あ……ああ、これは、」


いつも淡々としているジークが言い淀む
その手の中にあったのは、血で錆びた、潰れた弾丸
例の、ガラムを騒がせる殺人鬼の腹部を抉った、元はリカルドの持ち物だったそれ
答えに詰まったジークは口を噤んで、弾丸を大事に懐へと仕舞った
未だ首を傾げるエルマーナに、ただのお守りだと言い訳して
若干怪訝そうなリカルドの視線も誤魔化し、長年の経験により培われた勘が働かないことを祈る



「僕たちの準備はできたよ」

「そろそろ行こーぜ」


ルカとスパーダが顔を出す、二人は結構な戦闘を繰り返し刃毀れした武器を新調してきたらしい
それじゃあ行きましょうかと、イリアと二人で現れたアンジュも、何気に腹ごしらえをしてきたようで
全員準備万端な状態の中、ジークだけはほぼ何の準備もしていないことに気づく

(まぁナイフのストックもあるしいいか)

腰のポーチに入っている武器の重量を確かめて、彼はそう一人ごちる
誰もが殺人気に鉢合わせないよう願っているのを知っているが、ジークは一人だけ彼らと違う思いを抱いていた


誰かに会いたい、などと
初めて抱く感情が、ジークを『そこ』へ導く



(呼んで、る)


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