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アシハラにて不運到来






アシハラ到着後、一行は早速恒例の情報収集へ向かった
かつて強大な海軍を有した海洋国家であったのだが、そこは思ったよりも寂しい街だった
それどころか、世界各地で起こっている天変地異の所為で街は年々水没していっているという
事実、足元を見下ろせば、波の下では沈んだ街並みが揺らめいていた


情報収集の結果一番可能性がありそうだったのはアシハラの王墓、だったのだが
条件として謎の老人にアーマードボアの討伐を言い渡されたり
その老人が実はアシハラの現国王だったりと、到着早々色々なことがあった
(ついでに、ルカがチトセをナンパしていたとのイリア情報もあった)





王墓に立ち入ってから数時間後、祭壇らしき場所を発見する
鍾乳洞で見つけたものと形がよく似ていて、しかし保存状態はこちらの方がよく、表面に残った文字をはっきりと読み取ることができた
アンジュが祭壇に顔を寄せて、刻まれた文字を読み上げていった


「『初めは天も地もなく原初にただ創造神在りけり。永劫の孤独を疎み己の体を世界とし神々を生む。世界と神々、共々に在り。然し、卑しき神に溢れし時来る。卑しき神、神にあらじ。人と貶め、天より地に落とす。以後、天地隔たること、いと長き』」


見たこともないはずなのに、何故かアンジュ以外でもその文字を読むことができた
読み上げられた内容に、スパーダが首を捻る


「あのぉ、アンジュ。わかりやすく、頼めねぇ?」

「つまり天上は、原始の巨人の死から始まったの」


原始の巨人、と、スパーダが復唱する
アンジュの説明を掻い摘むと、こうだ

原始の巨人はつまり創造神、初めは世界も何もなく巨人が一人いただけ
孤独を嫌った巨人は自らの体から大地を、頭から神々を生んだ
神々は栄えたがしかし、悪い神も増え始める
そして神々は地上を作り、悪い神達を天上から追放し、そこに閉じ込めた
力を奪われた神々は『人』となり、それから長い時が経った


祭壇を離れてさらに進むと、異様なものが彼らの目に飛び込んできた


「なんやぁコレ?」

「壁画、じゃないか?」

「僕と…イナンナ…」


そこにあったのは巨大な壁画だった
壁画にはきわめて抽象化された三人の人物が描かれていて、何を表しているのかは想像が含まれるものの
並んで立っている二人の人物は恐らく男と女だろう
男は女よりひとまわりもふたまわりも大きく描かれている
その頭からは一対の巨大な角が生えていて、傍らの女性は髪を後ろに纏めていた

ルカの言うとおり、彼らはアスラとイナンナの特徴を持っていた
しかし三人目の人物は誰なのか、ルカにもよくわからない
壁画のアスラとイナンナから少し離れた場所に、仮面を被っている怪人物が描かれている
ただ、どうしてか、ぽつりと浮かび上がる名前があった

(…魔、王………マティ、ウス……?)


『魔王、創世力を高く掲げ、その力、長き眠りから呼び起こす』



アンジュが壁画の脇に記された文章を読み上げ、それはルカの頭に染み込んだ
魔王という穏やかじゃない名前を持つ者が、創世力を手にしたという
つまり創世力は最終的にアスラの手に渡る事なく、この魔王なる者の手に落ちたということか
魔王によって、いや、マティウスによって、天上が滅ぼされ、ルカ達が異能者として平穏な日々を奪われたのか

(マティウス………許さない……!!)

ルカはきつくきつく両手を握りしめ、歯を食い縛った


そんなルカをスパーダ達が怪訝そうにしている中、数歩離れた位置でイリアが両手で頭を抱えている
眉間には皺がより、頭痛でも感じているのだろうか


「…どうしたんだ?」

「イタタタ…大丈夫よ、ちょっと、頭痛が……」

「…あまり大丈夫そうに見えない」

「大丈夫だって言ってるでしょ、もうっ…あたし達先に行ってましょ、ジーク!」


イリアは片手を頭に添えたまま、ジークの腕を引いて奥へ奥へと進んでいく
その先にはアンジュが推理した通り記憶の場と呼ばれる光の輪が輝いていて、二人に追いついてきた数人は感嘆の声を上げた
真っ先に記憶の場に飛び込もうとするイリアだが、まだ頭痛が治まらないらしく、顔が歪んだままだ


「痛……っ、何か、思い出したらいけないことが、あるような……うー、頭痛い」


ルカ達は顔を見合せ、記憶の場に触れるのはもう少し待った方がいいのかもしれないと考えるが
意地を張ったイリアが、鼻息を荒くし、自らの足で記憶の場へと踏み入った



「ふんぬっ!行くわよっジーク」



何故かジークの腕を、掴んだままで

悪気があったわけではないということを知っているので無理に振り払うことも出来ず
ジークは視界が白く染まる最中、自らの運の悪さに深い溜息を吐いた



(最悪だ……)




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