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うわのそらうみのそら






「じゃあ、みんな調べた内容を発表してみて」



地下書庫に籠り始めてから数時間後、アンジュが収集をかけて一番広いスペースに集まった
隣ではイリアがぐったりと項垂れている、心の底から彼女は本が嫌いなのだろう
最初に声を上げたのはルカだった、イリアとは正反対で読書が好きらしく、まだ小脇に本を抱えていた


「じゃあ、僕から。ガラムのケルム火山では昔から独自の神様を奉じているみたいだね」

「そうね、あそこは鉱山だし、鍛冶職人が多いから、職業神として独自の様式が発展していったんでしょう…もとは同じ教会圏だったんだけどね。確か、ケルム火山が聖地とされていたかな」

「あと、アシハラって国だね。歴史が古く、異文化みたいだから、何か手つかずに残っているかも」

「行って見る価値はありそう。同じようにガルポスやテノスも行ってみないと」


イリアと違ってスパーダが比較的元気そうなのは、本当にサボっていたからだと思われる
これはアンジュの配置ミスだなと、ジークはリカルドの隣で一人納得していた
そこで、リカルドの雇い主であるアンジュの視線が彼に向く


「リカルドさんは、何かありますか?」

「いや、何も…」


リカルドは視線を宙に彷徨わせて答える
この時点で既にわかった、アンジュはもう知っているのだ、リカルドが惰眠を貪っていたということを
寝心地はいかがでしたか、と問う彼女の笑顔はどことなく恐ろしいが
またリカルドも大したもので、大人の余裕とでもいうのか、下手に言い逃れしようとはしなかった


「……。暗くて静かだ。眠るにはこれ以上ない場所だな」


責めるような(というより実際責めている)イリアの視線にも気押されず
彼は淡々とそう言いきって、ある意味凄いとジークやルカを感心させた


「あんなぁ、めっさでかい鼻ちょうちん出来とってんで」

「エルも、口元をきちんと拭いておきなさい。よだれの跡、すごいから」


結局、リカルドの組で居眠りしなかったのはジークだけだったようだが
当の本人はまた別のことを考えているらしく、その後の話は全く耳に入っていなかった
耳に引っ掛かったいくつかの言葉、全く別の意味で気になっているそれらだが、口に出そうとは思わない

(ガラム、ガルポス、テノス……)











「ジークくん、話聞いてた?」


「………、全然聞いてなかった」


アンジュは苦笑して、掻い摘んだ説明を始める
まず、一行はアシハラ、ガラム、ガルポス、テノスを巡ることになるそうだ
そのために今現在、リカルドは船の手配をしていて
ルカ達は挨拶がてらハルトマン宅へ出向いて、そこで色々な話を聞いた、のだけど
彼は考え事に耽って、何もかも聞き流していた、というよりも
ジークは教会の前でそのまま立ち尽くしていて、ハルトマンに指摘されるまで誰も気付かなかったとのこと
それはそれで酷い話なのだが、本人は至って気にする様子も無く逆に軽く謝罪を入れた


「手間をかけさせて悪かった。それより…」

「なに?」

「本が持って行かれたんだって……その、何とかバルドだかに…」


数日前顔を合わせた男の名は既にうろ覚えとなっており
こめかみを指で叩きながら紡がれた曖昧な名刺すらも定かな言葉ではなかった
アンジュは頷いて、そっと地下書庫へ繋がる隠し通路へと目をやる


「ええ……あれは教会関係者しか知らないはずなのに」

「……軍と教会が裏で手を組んでいる、とか」

「まさか!」


そんなことはあってはならないとアンジュは言う
あくまで憶測の域を出ない考えだったので、それらはすぐに会話の波に流されていくこととなった
港ではもうルカ達が集まっていて、リカルドも無事に船を抑えることができたようだ

最初に向かうのはアシハラ、他のどの国とも様式が違う、独自の文化と信仰を持つ国














ごくり


ジークはいくつかの錠剤を飲み下し甲板へ出る
いつかの列車と同じように、イリアに見つかれば寄越せと言われたかもしれないけれど
彼女は今完全にダウンしていて、アンジュやエルマーナの看病を受けている

貨物船であるらしい船の甲板には先客がいた
とある伝手でこの船に乗せてもらうことができたと語る、リカルドだ
彼はどこか、海を、水平線の向こうを見るような、遠い目をしていた



「リカルド氏」


平坦な声で呼びかけられ、リカルドは振り向く
一体いつまでその呼び方なのだろう、とか、思うことは色々あった
しかしそれを口に出すことはせずに、何だとだけ聞き返す




「ガラムと、テノス、行ったことある?」

「……ガラムは俺の故郷で、テノスは以前の依頼主の住む場所だ」



純粋な問いかけだったので、リカルドは素直な答えを返した
ジークは「そーか」と行って頷くと、簡易な手摺りにまで来て身を乗り出す
普段の彼からするとあまりにらしくない行動だったので、リカルドは少し驚いて見守ることにする


「ガラムは火山がある?」

「ああ」

「テノスは雪が降ってる?」

「そうだな」


返答を聞いて、彼はまた暫く黙り、遠くの海と空を眺めた(どちらも頭がおかしくなりそうなくらいに青い)
リカルドにはその意図が全く分からない、のだけど
呟きが聞こえた気がした、「行ったことはないのに知ってるんだ」と、小さく
小さく、潮風に乗ってそう聞こえてきたような気がした

何か言ったかと聞き返そうとしたその時、アシハラの港が見えてくる
同じくそれに気づいたジークが、ルカ達に知らせてくると言って走って行った
普段は得体の知れない人物といった感じなのに、そういうところはガキなのだな、と
リカルドは小さく息を吐き、船内へと戻るためその後に続いた





(私は、ガラム――いや、テノスで、"生まれた"?)




to be continued...
09.0809.


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