絶P | ナノ
キノコを探して×千里





何の情報も掴めず、スパーダとリカルドはそろそろ一度戻ろうかと提案する
例の如く二人の会話を右耳から聞いて左耳から抜いているジークは、表通りが騒がしくなってきたのを感じた
団体になって駆けまわるのは、あまりいい思い出のない兵士の制服に身を包んだ人々

物影に身を隠すこともせず、彼は呑気に間延びした声を上げた


「ねぇ、リカルド氏」

「……何だ、」

「ほら見て、兵士さんたちが何か騒いでるぞ」


その呼ばれ方に未だ不快感を覚えるリカルドは顔をしかめたが、続く言葉に眼光を鋭くする
スパーダと目を見合わせ、二人はジークの腕を一本ずつ掴んでマンホールへの道を駆けた
引き摺られるようにして走るジークは不服そうに呟いた


「何だこの扱い」

「こうでもしねェと、お前走んねーだろがっ」

「ベルフォルマに同感、だな」


未だ付き合いの浅いリカルドにまでそう言われる始末、ジークは人知れず肩を竦めた
スパーダはマンホールの蓋を開け、慣れた身のこなしでその穴に入っていく
リカルドもそれに続き、最後に入るジークにしっかり蓋を閉めておけと釘を刺すことを忘れない

ジークは半分ほどマンホールに入った後、それなりに重量のある蓋を引き寄せる
その時、下の方、下水道でスパーダが「うぉっ!オレの隠れ家が、こんなになってる!」と驚いたように叫んでいるのが聞こえた
だが別に緊迫した雰囲気でもなさそうだったので、ジークは自分のペースで蓋を閉める作業に没頭する
何気に難しいので、三分近く時間がかかった(その間人が一人も通過しなかったのは軽く奇跡だろう)

腰が痛くなる体勢を維持していたため、梯子を一段ずつ降りるのも億劫になり
彼はよく下が見えないにもかかわらず、臆することなく飛び降りた


「おわっ」

「ん……危なかったな」

「ったく、遅ぇっつーの」

「マンホールの蓋を下から閉める作業は生まれてこのかたやったことがないわけではないが慣れていないんだ」

「やったことあんのかよ!」


あまりに遅いので心配して様子を窺いに来たらしいスパーダの眼前に着地したジーク
軽口の応酬を済ませ、彼はその下水道にパーティ全員が揃っていることを確認し
同時に、一人増えて人影が多いことに気付いた
ルカよりも小柄な、恐らく少女は、にっと笑ってジークの顔を覗き込んだ


「自分、顔色悪いなー。ちゃんとメシ食うとるん?クマもめっちゃヒドいで」

「……誰だ、この小さいの」

「ウチはエルマーナ・ラルモいうねん。兄ちゃんは?」

「今はジークと名乗っている………おいミルダ君、状況を簡潔に説明して頂きたいのだが」

「エルマーナが情報を集めてくれるんだって、でもその代わりに僕らがキノコを探すことになったんだ」

「キノコ?」


ルカの口から紡がれた、情報とキノコとがどうしても結び付かないジークは眉を寄せて首を傾げる
動きやすそうな軽装に、薄紫の、短く刈り込んだような髪の少女、エルマーナは事の次第を簡潔に説明する

彼女が申し出た取引とは、こうだ

エルマーナがこの街で、ルカたちの役に立つ情報を集める
見返りとして、下水道の奥の鍾乳洞になる、長寿の霊薬になると言われているキノコを採取すること

そのキノコを売って、エルマーナは、この下水道で一緒に暮らしている子供たちにもっとマシな暮らしをさせたいと言った
(今一状況を把握できなかったジークだが、この下水道は現在、エルマーナが孤児院のようなものとして使っているらしいとアンジュに聞いて納得した)


ジークは大した間も置かず、首を縦に振る


「いいんじゃないか。じゃあ、行こうか」

「早っ」

「……、そういう方向で話がまとまったと思っていたんだけど」

「いや、何て言うかあんたって……そういうの真っ先にめんどくさがりそうなのに」


頭でも痛むのか、イリアが側頭部に片手を添えて呟いた
ルカも軽く驚いているのか、ぽかんと口を開けている
ジークはやれやれと溜息をつき、平坦な声で彼らの求めているであろう答えを出した


「……ただの気まぐれさ。あいにく僕は刹那主義なんで、ね」


皮肉気に歪められた口元は、暗がりの所為で見えなかったのだけど
すぐ傍にいたエルマーナとスパーダには偶然、彼が複雑そうな表情を浮かべているように見えた








「ねえ、これ、何だろう?」


複雑に入り組んだ鍾乳洞を奥へ奥へと進んでいく
すると、得体の知れない石の祭壇のようなものがある開けた場所へ出た
アンジュはそれを、ずいぶん古い形式の文字が使われていることから、この場所を天上に関係するものだと考えた

天から下ろされた直後には天上で扱われていた文字そのものが残っていたが
長い時間を経て文字が変化していき、現在の文字の形になったそうだ


「…不思議だな。見慣れない文字だというのにあらかた意味が分かる」

「つまり、前世の記憶で読んでいるんでしょうね」

「罪を悔い改め、反省を終えた。だから天に戻してくれ、といった内容の経文のようだな」


このような経文は今の形式に協会が統合されるよりも前、原始的な宗教に見られるとか、どうとか
ここがかつて信仰の中心地だったなど、アンジュは眠くなるような話を展開していくのでジークは数歩下がり距離を取った
どうしてか、その、彼らの言う前世の関係には近づきたくはなかった



そしてそこから少し進んだところで、光輝く円陣のようなものを発見する
アンジュは知っている様子だったが、その他のメンバーは心当たりがないらしい
だが、イリアは警戒心もへったくれも全く持たず
キレイだと感嘆すらしてみせ、無遠慮にその光へ近づいて、触れた

ジークは咄嗟にその場から離れなければと、本能からの声が聞こえたような気がした
だが、視界が一面白い光に包まれ、時が既に遅かったことを察した


(い や だ …!)





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