絶P | ナノ
生えてた場所





王都レグヌムに着いた一行は、適応法から逃れ隠れている異能者を探すこととなり町の中で散策を始める
その途中、コーダが例によってレグヌムの食べ物に興味を持ち、ルカとスパーダが解説していた
ここが地元である二人は揃っていいところの出、なのだが

ルカの挙げるどこまでも家庭的な料理に対し、何やら一応名家で育ったスパーダは別格であるようだ
ゴージャスディナーについて語るスパーダの口からは、聞き慣れない料理の名が次々と溢れ出す


「前菜は、そうだな、チーズと魚介を絡めたディップと、鴨肉とジュレを添えたテリーヌ。そしてスモークサーモンのサラダ、貝とタコのマリネ…、ポルチーニのスープポットパイとか…」

「ぬおお、よくわからん響きだなー。でも美味そーだ、しかし」


コーダは想像で、スパーダは思い出したのか表情が緩んでいた
隣で聞いていたルカと、更にその隣で話を聞いていたジークは互いに顔を見合わせる


「食べた事ないものばっかりだよ」

「質問、ディップって何だ」


はい、と挙手してジークはスパーダに尋ねる
彼は顎に手をあて小さく唸ると、しどろもどろに答えを出した


「そりゃ、アレだァ…。何かトロトロしたヤツをパン切れに乗っけて食うんだ」


かなり抽象的な返答に疑問符を浮かべ、次はルカがジュレとテリーヌについて聞く
スパーダは笑顔で答えた


「えーっとだなぁ、トロトロしててんで四角いんだ。ソレをパン切れに乗っけて食うと美味い」

「…マリネって?」

「何かヒタヒタした汁の味がする。で、「パン切れに乗っけて食うと美味い?」……そう、よく分かったな」


ジークに用意していた言葉と同じものを言われ、スパーダはばしばしと彼の薄い背を叩いて笑った
やはりどこまでいっても抽象的な例えに、ルカが呆れたような笑いを零す


「いまいちよくわからないけど、とにかくパン切れに乗っけてばかりだね」


それを聞いたスパーダは、憤慨したようにルカの両肩を掴んで
普段は戦闘の時にしか見せないような、真剣な表情を浮かべた
どうしたのか、とルカが怯えて問う前に、スパーダは力説する


「それだけじゃねーんだよ!クラッカーに乗っけて食うのも超美味いんだぜ?」

「クラッカーなー!パリパリしてて美味いなー」

「だろー?クラッカー、いいよなー」


「……よく分からないな」

「うん、そうだね」


そんな、くだらない会話を楽しんでいる最中
ルカはとある民家の前で、唐突に足を止め、呼吸すら止まっているかのように見える
それに気づいたアンジュに呼ばれ、飛んでいた意識を現実に引き戻したルカだが
彼のその様子は、どこか後ろ髪を引かれているようなそれだったように感じる


其処から暫く歩いた時、前方に兵士の姿が見えた
悠々と表通りを歩いていたイリアがあることを思い出し身を硬直させた


「ゲ……そういやあたし達、脱走兵だったわよね…」

「チッ、隠れるぞ」

「あ?大丈夫じゃねぇ?一般人がパッと見ただけで転生者かどうかわかるわけねーって」


取りあえず裏通りへ身を潜めた一行が、巡回兵の動向を探りながら小声で話す
だけど、と、ルカがスパーダを窺い見た


「スパーダは大暴れして兵士に取り押さえられていたじゃないか」

「ああ……そういえば色々な人間から恨みを買っていたな。通報される可能性が無いわけない」

「う……」


言葉に詰まったスパーダがイリアとコーダに茶化され、小規模な喧嘩が勃発しそうになった所を
アンジュが窘め、事なきを得、まずは安全に身を隠せる場所を探さなければという話題に切り替わる
リカルドの挙げた理想としては、人目につかず、かつ出入りが容易というそうそう見つかりそうもない場所

黙りこくる一同だが、真っ先にそんな場所を思い立ったのはスパーダだった


「あ、そーだ。いい所があった。なぁジーク、あそこ行こうぜ、工業地区のさ」

「………ああ、あれか。お前が生えてた場所」


ぽん、と手を打ったジークも思い出し、頷く
だがその『生えてた』という言い方に、誰もが疑問を抱いた


「…生えてた?」

「その言い方止めろって!」


ルカに八辺りしたスパーダに先導され、彼らは一つのマンホールの前で立ち止まる
そこは少し前、スパーダとジークがある意味運命的で衝撃的な出会いを果たした因縁の場所だった
スパーダはそこで膝を付き、マンホールの蓋を持ち上げると、懐かしげに眼を細めた


「ここだここだ…。親から逃れるために、こっそり隠れ場所を作ってたんだ」

「ちょっと下水道じゃない!」

「この辺りは匂いはほとんどないんだよ。たまにドブ臭いけどな」


ジークは、マンホールを見詰めて顔色を悪くしているアンジュに気付いた
安心させるためなのか或いは嫌がらせなのか、事も無げに言ってのける


「大丈夫だ、何かここそこの坊ちゃんが自生してた場所だし、安全だろ」

「自生って…スパーダ君が?」

「………、お前もう黙ってろ頼むから」


スパーダに小突かれ、ジークは素直に口を噤んだ
このマンホールの下の秘密基地が集合場所になり、定期的に戻って連絡を取り合えとリカルドの指示
団体で情報収集はいささか効率が悪いので、コイントスで二人一組(どれか一組は三人になるが)を作り行動することとなった


結果は、スパーダ、リカルド、ジークの工業地区を回る組
イリア、アンジュの商店街を回る組
ルカ、コーダの住宅地を回る組、に決まった
ルカが外れ籤であるような気がするのは恐らく気のせいだということにしておこう



「おら、行くぞジーク」


こくりと頷いたジークはしばらく声を発することが無く
理由の分からないスパーダに、リカルドが機転を利かせ
「もしや、お前が黙ってろと言ったからではないのか」と尋ね、少年がそれに再び頷くまで、一言も話さなかったジークはある意味強かった

その後、散策中はスパーダにさんざん引っ張り回されることとなったのだけど





[] | []

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -