絶P | ナノ
仲直りはグミの味






ジークはナーオスの大聖堂の、瓦礫が積まさったその一番高い位置にいた
崩落の危険性があるため昼も夜も人が近づかない大聖堂跡の、壁の破片の上に横たわり
真上に浮いた弦月を眺めている

そっと首元へてをやると、まだ喉がひりひりしていた

(……変だ、自分)


自分の言動と考え方が常識から遥かに逸脱しているのは周囲の様子を見れば何となくわかった
だが近頃、スパーダやルカ、イリアと出会ってからは、輪をかけて何かがおかしくなってきている
このままここにいるべきか、彼は決めあぐねている

今こうして別行動をとっているのだから、いっそ彼らの前から姿を消してしまった方が早いのでは
そんな考えが頭を過り、脳内の全てがそれを肯定しようとしていた時
そこらに積まれた瓦礫の山が、人為的に転がされるような音が耳に届いた


横たわったまま横目で音の発生源を見れば、顔を出したのはまだ幼さの残る、若草色の少年だ


(…デジャヴ)


スパーダは無言で、ジークの隣に腰を下ろす
ちらりとその顔を窺ってから、彼は躊躇いがちに整った唇を開いた


「……悪かったよ、無神経なこと言って。アンジュに怒られちまった」

「……」

「オレが怒ってた理由、分からなかったんだってな。ったく、どんだけ鈍感なんだよ…」

「……」

「次は情報収集のために、レグヌムに行くことになったぜ。さっさとハルトマンの家行って飯食って寝るぞ」


スパーダがへらっと笑って立ち上がるよう促す
だが、ジークは寝転がったまま動かない
深紅の隻眼はどこか不思議そうな色を浮かべ、スパーダを見詰めている
沈黙を保つジークに居心地が悪くなったのか、スパーダはがしがしと頭を掻いて意味を成さない声を上げた


「だぁぁああっ!何か喋れよてめぇ!オレがバカみてーだろうがっ」

「………」


やはり何も言わない彼に本当に怒るぞ、と立ち上がりかけたスパーダは、その手の動きに気付く
彼の華奢な、ガードルに付けられた傷がまったく治療されていない右手
人差し指が自身の喉の上に置かれ、とんとんと叩かれる
理解しきれないスパーダは眉間に深い皺を刻んだ


「あ?喉がどうしたって……」

「……のど、いたい。…あんなに、こえはった、の、はじめてだった……」


ひゅうひゅうと掠れた声を聞いて、スパーダはがっくりと脱力した
確かに普段からあまり、声に感情を乗せたりしないジークだからこそ
あの時叫んだ声が、暫く耳に残って離れなかった(どこか悲痛だったから)

スパーダはポケットに手を突っ込むと、包み紙に包装されたグミを取りだす
中から現れたのはアップルグミで、赤く透き通ったそれが月光で宝石のようにも見えた



「ほら、口開けろよ」


「ん、」



素直に丸く開いた口の中に、彼はグミを放り込む
もぐもぐと食まれる度に上下する頬を見て、不覚にもスパーダは彼が可愛い生物のように見えた
柔らかそうに揺れる、夜なので黒く見える前髪をそっと撫でるスパーダ
拒まれることはなく、やはり不思議そうな顔でジークは彼を見上げた



「へんだな、おまえ」

「あぁ?」

「手があったかい」

「別に普通のことだろ…」



そうなのか、と零したジークにスパーダは苦笑し
早く帰らないと風邪引くぜ、そう言い残して先に戻って行った
適当な相槌を打ったジークに最初から戻るつもりなどなく


翌日、昨晩と全く同じ体勢で瓦礫の上に横たわっていたところをルカたちに発見され
主にイリアとスパーダから直接的な、アンジュからは精神的な説教を食らうこととなる(その時昨日のことはちゃんと謝罪した)
そこにとげとげとした空気はなく、ルカも普通に笑いかけてきたし、リカルドは小さな謝罪と共にそっと頭を撫でてくれた

違和感は何一つない、それが自然体であればいいとルカは思った


少年が一睡もしていないことなど、誰も知らない




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