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無計画な潜入作戦





ナーオス基地の様子はどことなく転生者研究所に似ていた
しかし彼らが見たものはそれの比ではなく、もっとひどいものだった
もしかしたらあの研究所にも"これ"と同じような部屋があったのかもしれない



「なんだこれ!」



転生者と思しき人々が窮屈なシリンダーに詰められ、液体浸けにされていた
もはや転生者が人としての扱いをされていないことに憤慨するルカたちに構わず
ジークは一人シリンダーの一本に近づくと、ぺたりとそれに触れた


「生きてる………乾電池みたい」

「え?」

「これから兵器の動力源にされるんだな、きっと」

「何なのよ……あたし達、何にも悪い事してないじゃん!」


地団太を踏んで不愉快さを露わにするイリアと同意するルカの後ろで、スパーダが罰の悪そうな顔で黙りこくる

(その能力でケンカに明け暮れてたのは…、きっと悪い事だよなぁ…)

唐突にイリアに話を振られ、あさっての方向の相槌を打つスパーダはやはり言い淀んでいる
彼なりに一応反省はしているのだろう

無計画で基地に潜入できたのは兵士の数が少なかったからだとジークは思う
恐らく崩壊した戦線を立て直すため多くの兵士が戦場へと発ったのだ、それが幸いしている
気付いているのかいないのか、緊張感が全くと言っていいほどない三人を後目に、彼は溜息を吐いた


「とにかく……私たちは聖女さんとやらの顔を知らない。ここで一人ずつ調べても無駄だろうから進んでみよう」


その意見に反対する者は一人も居らず、彼らは囚われた転生者たちに後ろ髪を引かれるような想いをしながらも奥へ進んだ








『ワー、ブー、オンセイ シキベツ ヲ ハジメマス』


直前に通過した部屋で、ルカが「対転生者用かも」と零した兵器のような者が機械音を発しながら話す
背後に転生者入りのシリンダーがセットされていることから、その可能性は非常に高いのだが
銃器が装着されているのでやはり兵器であるらしいそれは、音声識別を始めると言ったのだ
ここは声を発しない方が得策だと思われる場面であることは確かだ


「お、喋ったぜ?やっぱ人が入ってんのか?」

「それともあのシリンダーの中の人かなぁ…ねぇ、ちょっと!聞いてんの?」

「い、イリア、落ち付きなよ…」


(馬鹿だ……)


ジークが溜息を吐くと、予想通りの結果となった
音声識別機能に三人の声が登録されているはずもなく、エラーとなり
ここで完璧に侵入者と見做され、排除すると確かにその兵器は言った


「え…排除…?」


聞きとれなかったのか、ルカが小首を傾げていると
微妙に人型をしている機械の腕の先に備え付けられている巨大な銃から
重い音を立てて銃弾が発射された


「おたんこルカ!さっさと逃げるのよっ」

「チッ、こっちだデカブツ!」


イリアに手を引かれルカが数歩下がると、一瞬前まで彼が立っていた床に無数の弾痕が穿たれた
入れ替わるようにスパーダが前に駆け出し、装甲が厚そうな機械へ斬りかかる
しかし見かけの通り装甲は伊達ではなく、ガキンと硬質な音を立ててスパーダの斬戟を弾き返すと
今度は彼をターゲットとしたのか、即座に距離を取るスパーダの軌跡を弾痕と土煙で追従した


三人が死と隣り合わせのチェイスを繰り広げている傍ら
一人だけエラーを得なかったので一先ず標的から外されたジークは仕方なさそうに爪先で床を叩く
ジークは円を描くように走るスパーダを追跡している機械が丁度背中を見せた時
目にも止まらぬ速さで地面を蹴って、それの背部に飛び乗った


「ジークッ!?」

「お前はそのまま走って時間稼ぎだ、そっちの二人は援護でもしておけっ」


珍しく早口でまくし立てられた三人は、何か考えがあるのだろうと確信して頷いた
スパーダは速度を上げ銃器の向きを撹乱し、ルカとイリアは天術の詠唱を始めありったけの力で動きを鈍らせる
ジークは片腕で機関部分に腕を絡め、袖の内側から、牢屋からの脱走の際に使用した金属の棒を数本取り出した

(生きてる…みたいだな)

シリンダーの中、緑の液体に浸かった女性が苦悶の表情を浮かべて身を捩っていた
この兵器に生命力を奪われているのだろう、ただのエネルギー源、乾電池として
これならば長い時間は生きられず、死体になっても利用されるのは容易に想像できる


ジークは口元を歪ませると、シリンダーと兵器の接続部分を固定している部品を解体し始めた
数秒と経たぬうちにそれはパキンと音を立ててはずれ、シリンダーは床に落ちて砕け散る
浮いた身体が散らばった破片で傷つけられる前に、ジークは解放された女性を抱えて数歩下がった

糸が切れたように動かなくなった兵器は、そのまま後ろへ倒れ重厚な音と土煙を上げる
落ち付いて見れば、それは"ギガンテス"と銘を打たれた兵器らしい(伝説上の巨人の名だ)

息を切らしたルカたちは、一人涼しい顔をしたジークと、気を失っている空色の髪の女性の傍へと歩み寄った



床に下ろされた彼女は咳き込みながら、薄らと、睫毛の長い瞼を持ち上げた





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