絶P | ナノ
遠足に行ってきます
ハルトマンと別れを告げ、一行は道具屋などで潜入の準備を整えているのだが
スパーダは未だにお坊ちゃまネタでイリアに揶揄され、更に悪ノリしたルカにまでからかわれていた
「あー、うるせェ。すごくうるせェ!もれなくうるせェ!!」
二人のからかいに耐えられなくなったのか、スパーダは軽く癇癪を起し駆け足で
我関せずな様子で前を歩いていたジークの隣に並んだ(大分短くなった髪は後ろで一つに束ねられ揺れていた)
ルカとイリアはそれを追うようなことはしなかったが、言葉の追い打ちをかけている
王都でも指折りの貴族であるベルフォルマ家の末子であることが判明したスパーダ
筋金入りの不良である彼の出生が知れて、これ以上のからかいネタがあっただろうかという魂胆なのだろう
ふと、イリアが心底不思議そうな顔をして首を傾げる
「でも何であんた、そんなに大胆に道を踏み外しちゃったのよ?」
イリア曰く放っといても大金持ち、と称されたスパーダは
彼女に背を向けたまま、ため息交じりに答えた
「そりゃ、暮らしていくだけなら、いくらでも食わせてもらえるだろうよ。でもそれは誰かの世話になるってこった」
「どういう意味?」
「兄貴が大勢いるから、オレにまわって来るものはなーんもねェって事さ。せいぜい政略結婚の道具にれるぐらいしか使い道はないだろうよ」
隣にいたジークが横目で見ると、スパーダの顔にはそんなのはご免だぜ、と書いているような気がした
それよりも政略結婚とは言えこの男とくっつくこととなる娘さんが哀れだとジークは内心で思う
結婚できることに対して羨んだルカにひと突っ込みいれ、彼は少し言い淀んだが続けた
「「誇り高い」ってなぁ、誰かの世話になったりしねぇ事を言うんじゃねーの?」
それはルカたちに言っているというよりも、自分自身に言い聞かせているようでもあった
ところどころ白い雲が浮いている晴天の青空を仰ぎ、握り拳を作ったスパーダは徐々に口調を荒くして言う
「ウチの士道訓五箇条ってのは、守れば立派になれるって意味じゃない。己を律する心得みてェな物だ。オレは…、まず立派な人間にならなきゃなんねーんだよっ!」
「志は立派だね」
「うん、立派だと思う。志はね」
「だが本人がアレじゃあな」
珍しくまともなことを言ったスパーダに対する風当たりはこのとおりだ
終いにはジークまでがそう口をはさむ始末
スパーダは肩を怒らせて吐き捨てた
「どーせ、オレは不良だよ!」
本気で怒ったらしいスパーダの背を見て残された三人は顔を見合わせる
何故か意志が伝わったらしく、その中で一番適任であると思われるジークが声で彼を追った
「まぁ、事実志は立派じゃないか。あー……何だっけ、心に楯を持ち誰かの剣となれ?」
「…ちげーよ、逆だバカ。『心に剣を持ち、誰かの楯となれ』、だ」
「そう、それ」
黙って聞いていたスパーダはがっくりと肩を落とす
至極面倒臭そうに、ハルトマンとの会話を聞いていないジークに自分の『誇り』を語るスパーダ
ベルフォルマ家士道訓五箇条
心に剣を持ち、誰かの楯となれ
右手に規律を、左手に誇りを
己を殺し、永久の礎にせよ
正しき道を正しく歩め
個よりも全に仕えよ
騎士の心得であるそれらを覚えているスパーダは
棒を剣に見立てて振るい始める前からハルトマンにその士道訓を叩きこまれたそうだ
ほう、と感心に頷いたジークはこめかみをトンと叩きながら呟く
「…指針、規範、自己犠牲、正義、忠誠心?私には縁のないものばかりだ」
「うへぇ…、よくチョロっと聞いただけでわかったなぁ……オレ、毎日百回ぐらい暗唱させられてようやく意味がつかめたのによォ」
解釈は教わらず、生活の中で自然と身に付けていくものだと説かれた少年の結果が今の不良状態
礼儀作法も教わらなかったというのだから妙に頷ける
だが、上に兄がたくさんいたから単に自分を躾けるのが面倒だったのでは、と内気になるスパーダは見慣れたものではなく
ジークは咄嗟にかける言葉を失って、代わりにルカがフォローを入れた
「で、でも!スパーダってただの不良じゃなかったんだね」
「あ?何言ってんだ、お前?」
「ヒッ…」
「そんなビビんなよ!冗談だって、じょーだん!」
(やっぱ不良だなぁ、この人)
笑いながらばしばしと背中を叩かれるルカは内心で涙を流す
丁度必要となる回復薬(主にグミ類)を買い終えたジークは後ろにいたイリアを見て言った
「今から行くのって遠足だったか」
「……違うわよ、とだけ言っておく」
二人は未だにじゃれ合う少年たちを見て、ため息と苦笑をそれぞれ漏らした
緊張感の欠片もない彼らが世間に恐れられる転生者だというのだから、尚面白おかしくジークには思えた
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