絶P | ナノ
もれなくリユニオン








ジークは間もなく戦場を抜け、忘れかけていたイリアの言葉を思い出しナーオスへと向かうことにする
彼に言わせれば向かう理由はないのだが、半ば押し付けられるようにして受け取った帽子を持ち主へと返さなければならない
いっそ捨ててしまえば早いのかもしれない、だがそれをした時の持ち主からの仕返しは想像して気持ちのいいものではなかった


(あいつ、強いしなぁ)


歩きながら考えていると視界が目まぐるしく変わる
続いて身体に感じたのはほぼ自重と同じくらいの衝撃

ジークは地面に倒れ、帽子はぱさりと頭から落ちた


「ん……?」


躓いたわけでもないのに転んだ自分の足元に違和感はなく、靴だって壊れていない
一体どうしたというのだろう、疑問符を頭上に浮かべ両腕で身体を持ち上げようとすると、全身が軋む感覚
特に腰の左側の刃物傷からの痛みが酷かった

未だに血は凝固が終わらず、じわじわと湧き出していて
ジークは一旦地面に座って、腕に巻いていた人一人包み込めそうなくらい大きな布の端を細く裂いて
腰の傷を圧迫するように幾重にか巻き付け、包帯の代わりにした



「……大分ガタが来てる、かもな」



誰に言うでもなく呟いて、ジークは荷物の中からアップルグミを一つ取り出し口へ放り込み
列車の中で飲んでいた錠剤も同じように放って飲み込んだ
それで失った血が戻るわけでもないのだが、いくらかの気休めには十分なるのでそれで充分だろう


このまま南へ進めば、日付が変わる前にはナーオスへ辿りつくことが出来る
元より睡眠の時間を計算に入れていない彼は躊躇いなく立ち上がると、南へと進んで行った













月が真上に上る頃、予定通りジークは人影一つなく真っ暗なナーオスの街に踏み入っていた
大通りを真っ直ぐ進んだ先にある大聖堂の前に立っている

ただし、大聖堂は大聖堂でもただの残骸と成り果てていたのだが


以前この街へ来た時は健在だったはずなのだが、とジークは記憶の糸を手繰り寄せ首を捻る
まさかこんな立派な石造りの建物が自然に崩れるはずもなければ、最近大規模な地震もなかったはず

首を傾けていたため横になっていた景色が、そのままに流れて行った


どさ、


本日二度目の出来事にジークは深く息を吐く
どうやらかなり血が足りていないようで、元々低体温だった身体が更に冷たくなっているような気がする
彼ははっきりとした意識に反して上手く言うことを聞かない自分の身体を疎ましく思い、舌打ちした

暫くこのまま休んでもいいだろうか、と横たわったままでいたジークだが
深夜で人通りの全くない街に、どこからかコツコツと足音が響いてくる
人気がないとは言え崩れた大聖堂の前で倒れ伏している人物がいたら色々と通報されそうだと思い
ジークは渋々と起き上がって柱の残骸に背を預けた



コツコツコツ、

――― カッ、カッカッカ



足音は一度立ち止まったかと思うと、リズムが速くなった(小走りだろうか)
どうやらこちらへと近づいてきているようで、恐らくジークの存在には気付いているらしい
もしかしたら異能者狩りの兵士かもしれないので、念のためナイフを構えておく

だが近付いてきた足音の持ち主は、ここ最近でよく見知った顔だった





「やっぱり!無事だったんだなジーク」


「あ、スパーダ・ベルフォルマ君」



嬉しそうな声を上げたかと思うと、スパーダは天術でも使っているのかと疑ってしまうほどの速さで駆け寄ってきて
その勢いのままに、ジークに抱きついてきつく抱き締めた

最近は抱き締めるのが流行っているのかと尋ねたくなるジークだが、すんでのところで口を吐かずに済む
そんなことよりもただ、肌に馴染まない温かさがどこかくすぐったく感じた



「お前っ、カラダすっげー冷てェ」

「そうか?お前が熱いんじゃないのか…」

「つーか、血!ジークひっでー怪我してたじゃんか、大丈夫かよ?」

「…へーき。それより何でこんな時間にうろついてるんだ、流石不良だな?」


ちっげーよ、とスパーダは即座に否定を返す
立ち上がったスパーダはジークの手を引いて立ち上がらせ、もう片方の手の親指を立て自らの後ろを指し示す
何やらそちらの方向に向かうぞ、という合図であるらしい



「食後の散歩だ、散歩。あっちに俺の知り合いの家があってよ、そこで匿ってもらってんだ」

「へぇ」

「ちゃんと信用できるヤツだから、お前も行くぞ」



緑の少年はジークの手を掴んだまま前へ前へと進んでいく
生きるか死ぬかの状況で別れた彼らの再会までに、長い時間は必要ないようだ



「あ、忘れてた。スパーダ、」

「んぁ?」


ぽす、
ジークは自分の頭から帽子を取り、スパーダの頭上に乗せた
振り向いたスパーダの目に映るのは、普段よりも幾分か
柔らかい表情をしているように思われる、ジークの隻眼



「…お届けもの。今度は落とすなよ」


「……バーカ。落したんじゃねェ、貸したんだよ」



スパーダは、初対面の時よりかなり短くなったジークの頭髪を掻きまわすように
ぐしゃぐしゃと撫でて、帽子を横に被るとにっと笑んでみせた





[] | []

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -