絶P | ナノ
巻き込まれる宿命





決闘特有の息の詰まる空気に、ジークは挟まれている
しかも隣には変態、正面には殺し屋、どこで人生の選択を誤ったのか考えてしまうくらいに息苦しい
いい加減出血が酷いな、と傷口に指を這わせると
傷の縁あたりは微妙に血液が凝固を始めていて、布か何がで圧迫しておけば死に至ることは防げると思われる


こうなったら例の襤褸布でも巻いておこうか、と手を伸ばしたところ誰かに背を押され突き飛ばされ地面に転がった
誰か、などと考える必要もない、この状況で彼の一番傍にいるのはハスタしかいないのだから




「ちょーっと待っててね、リカルド氏と遊んだらお前とも嫌になるくらい遊んであげちゃうんだポン」

「全力で遠慮したいです」


「……そのガキは盾にするために連れていたのではなかったのか、」


リカルドの呟きに、ハスタは純朴そうな笑みを浮かべて可愛らしく首を傾げる
実際のところ全然可愛くないというのがリカルドとジークの本音なのだろうが
二人は空気を読んでそれを口には出さずにいた


「まーたまたァ。いつの間に冗談が上手になったんだいリカルド氏ぃ………御上手なジョークタイムは終わりでいい?いいデスね、ではでは戦闘に突入っ」


ハスタは言い終わるよりも早く一歩踏み込み、担いでいた槍を身を捻って大きく溜める



「ハスタキーック!」



そう、掛け声を上げるのだが
彼が繰り出したのは槍による突きの繰り返し
その技の中に終始蹴りは一度も含まれなかった
故意なのかまたは敵を惑わすペテンなのか

ハスタがかなりの曲者であることはわかっていたのだが
少なくともジークよりも彼との付き合いが長いであろうリカルドは騙されなかった
武器の銃身で攻撃を全ていなし、数歩飛びずさって発砲する
器用に身を引いたハスタにダメージは無く、楽しそうに笑い声を上げた



「はは、ははは。いいねぇやっぱり殺し合いはこうでなきゃ。流石お前さんは分かっていらっしゃる」


彼の言う『殺し合い』の雰囲気に合わない朗らかな声音
リカルドはそれをふんと鼻で笑い飛ばし、構えを解いていたハスタに躊躇いなく銃を突き付けていた
ジークには何となく勝負が見えている、何故なら相手は異能者であるらしいから

どんなに超人的な力を持っているハスタであっても
越えられない壁があってもおかしくないのだと、そう思う



「お前の悪い癖は仕事中にぺらぺらと喋る事だ、ハスタ。仕事は黙ってこなせ、効率が悪くなるからな」



パン
 パン



立て続けに聞こえる発砲音
滅多に表情を変えないハスタにしては珍しく、目を見開いて槍の穂先で一発目の銃弾を弾く
金属同士がぶつかり合う甲高い音が響いた


だが、もう一方の弾は

彼の腹部に、容赦なく食い込んで行った



「っ、あれ?」


当り所が悪かったのか、ハスタはがくんと崩れ落ち地に膝を付いた
それを見たジークはどうしてか腰が浮いて、彼の元へ駆け寄りそうになってしまう

そうだ、止めたいのだ
今すぐにでも彼に銃を向けるリカルドに対して、ナイフを投げてやりたい


(何で、こんな気持ち……)


先程出会ったばかりの、しかも初対面どころか出会う直前から攻撃を仕掛けてきた相手、ハスタ
そんな人物相手に情けをかけようなどと、思う方がどうかしているというのは頭で理解しているというのに
これほどまでに逃げ出す絶好のチャンスはないかもしれないというのに

何故かそんな気が起きないジークは
胸のあたりで、ぐっと服を握りしめて湧き上がる何かを堪えた



「さぁ、お祈りの時間だ。何か言い残すことはないか?」



リカルドは淡々と、笑うことも怒ることもなく銃を向ける
ハスタは地面に座り込んだまま視線を落とし、黙ってその時を待っているかのようにも見えた
自分を狙う銃に弾が込められる音が、聞こえているのだろうか


だが、彼はぽつりと呟く

それは場の局面を覆すもの、だった




「―― お前、ヒュプノスだろ」


「な、に?」



はっとして、目を見開き驚きを露わにするリカルド
顔を上げたハスタはにぃと笑い、立ち上がりざまに踵を返す

敵であるはずのリカルドに思い切り背を向け
銃弾を喰らっているはずなのに、目にも止まらぬ速さでジークを拾い抱え走る
突然の出来事に頭がついていかないジークは小さくなっていくリカルドと流れる景色を交互に見比べ
何とか状況を理解し預かりものである帽子を落とさないようにと抑える

ハスタの、すたこらさっさという全速力での見事な逃げっぷりに、自称仕事熱心なリカルドも思わず見惚れてしまい
意識を現実に戻した時には既に、ハスタの背も見えなくなってしまっていた


後に残ったのは、二人分の血痕、だけ






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