絶P | ナノ
黒ヒットマン桃クレイジー








陣営の方からけたたましい警報の音が響く
どうやら襲撃を受けたらしく、ルカたちは次第に駆け足になった
彼らは目的を忘れていやしないだろうかとジークは疑問に思う

(今のうちに逃げればいいのに……)

やれやれとかぶりを振り、彼も仕方なく陣営の方へとマイペースに足を進めていった






「ガラム兵の奇襲だー!!総員警戒せよ!」


陣営のテントはほとんど炎に包まれおり、中の物資などはもう使い物にならないだろう
ジークがのろのろと辿りついた時丁度、慌ただしく走り回っていた兵士がどこからか狙撃され倒れ伏し
暫く痙攣した後、もう二度と動かなくなった



「伏せろ!」



スパーダが怒鳴りルカとイリアは伏せるが
奇襲攻撃に虚をつかれ疲弊していた、例の指揮官の反応が遅れる
偶然そのタイミングで駆け付けたジークは瞬時に状況を判断し
彼の膝裏を蹴って無理矢理体勢を崩させ(所謂膝かっくん)自身も身を低くする


 パン


直後、一瞬前まで指揮官の心臓があった場所を的確に、銃弾が通り抜けて行った


パン


追撃は、スパーダの両手に収まる双剣が弾いた
かなり乱暴なやり方ではあったものの、スパーダとジークは一応指揮官に褒められる
彼によるとガラム兵は撤退したと見せかけ、闇に乗じて伏兵を置いたらしく
こうして本陣を奇襲作戦で攻め込まれている模様

日が落ち始めた頃急に兵が増えたのは、本陣を手薄にする陽動作戦だったと読んで間違いないだろう
相手にはかなりの知恵者がいると思われる


  パン


指揮官に報告へ来た兵士がまた一人、撃ち殺された
ジークは流れるような動作で身を起こしナイフを抜き、銃声のした方向へと投擲する


「見えた!そこだな!」


それを追うようにして地面を蹴ったスパーダはじぐざぐに走って銃を使う敵に狙いを定めさせず、剣を振るう
身体を捻って斬戟を交わしライフルを構えたのは、黒いコートに身を包んだ男
黒の長髪を後ろで束ね、額には大きな傷跡、藍色の瞳は鋭い光を宿し正面のスパーダへ真っ直ぐと照準を合わせている


「へっ、いい度胸じゃねェか!」


「スパーダっ」


ルカとイリアはそれぞれ武器を取り、緑の少年の援護に向かう
ジークは生き残った者へと命令を下す指揮官の背を悠長に見送り
地に伏せったために汚れた服の土埃を払っていた

一方ではヒットマンとイリア、銃を使う人間が二人も戦っているので流れ弾に気をつけなければ、と
その考えに反して動作には全く焦りを滲ませないジークの表情が一変し、凍りついた




  ヒュ ヒュンッ



「―――ッ!?」


風を切る音が真後ろから聞こえる直前
ジークは身の凍るような殺意の塊をぶつけられたような気がして、ほぼ反射的に身を捩ってソレを避けた

いや、致命傷こそ逃れられたものの、完全には避けきれなかった


ぱさりと地面に落ちたのは、ジークが歩いたり動いたりするたびに尾を引いていた長い三つ編み
随分と頭が軽くなったと思えばそれは半ばより上の、肩のすぐ下辺りで切断されていた


(首を狙ったのか、こいつ)


ジークは冷静さを欠かず
ただ目の前の、いきなり首を飛ばそうとしてきた相手から目を逸らそうとはしなかった
その間、少年の足元にはぱたぱたと鮮血が落ち、地面に染み込み、血溜まりを大きくしていく

出血部位は、ジークの左脇腹の横長の傷
黒いセーターが裂け、白い肌は鋭利な刃物で斬られ今なお出血を続けている



彼の血と、それ以外の誰かの血がべったりと付いた長槍を持つ、正直言って変な男がにたりと笑う
桃色の短髪を持つ彼こそが、背後からの不意打ちでジークに軽傷ではない傷を負わせた人物だ


「なんだ、お前……」

「オレ?さあさあ何だと思うー?」


間延びした声が鼓膜を撫でるような、纏わりつくような、少なくともいい気持はしない声音
だがそれは大半の人間の話で、ジークはそれに拒否感を持ち合わせることはなかった
しかし今こうして命を狙われたので、赤い服、首元や袖を飾るひらひらしたフリルにピンク頭のこの変な男は敵と判断
ジークは袖からナイフを取り出し、両手の指の間に挟んで構えた


対して槍を担いだままのらりくらりと身体を揺らす男は、片手に見覚えのあるものを持っていた



「落し物ですピョロよ。根が優しいから届けないではいられなかったりするオレがいる」


「あの時……隠れてたのはお前か」


スパーダの背後に感じた誰かの気配はどうやらこの男のものだったらしい
あの時四つ投げ、三つしか確認できなかった特注品のナイフを、彼が持っているのが何よりの証拠だ

男は指でくるくるとナイフを回し、前置きもなくジークへ向かって投げた
と言ってもジークのするような投げ方ではなく、緩くアーチを描く程度の柔らかい投げ方
隙を見せないようにしてジークは片手でそれを掴もうとする、が



ズルッ


「うぉ、」

「つーかまーえたー」


一歩踏み出した瞬間彼が踏んだのは自身の血液
まだ短時間しか外気に触れていないので粘着質な液状を保っていたそれは、見事なまでにジークの足を滑らせた
そうして体勢を崩し、前傾したところで変態っぽい雰囲気を醸し出している男の腕に受け止められてしまったわけだ

槍を持っている方の腕で腰を抱き込まれ、もう一方の手はぐ、とジークの細い顎を掴んで顔を近づける


ジークとその男の瞳の色は、よく似ていた




「お前……、誰だっけ?」

「まるっきりの初対面であります隊長」

「そうであるか軍曹、そりゃ大いに困ったなァ」


何が困ったのかよく分からない
それ以前にそのやりとりの意図が分からない
どこか波長の似た二人は暫く正面切って睨みあい、または見つめ合い
少々離れた位置で行われていた戦闘がとうに終了していたことに気付くのが遅れてしまった





「いーじゃん!ちょっと聞いてってば!」



黒いヒットマンと対峙するイリアの声に反応し、ピンクの男はぐるりとそちらを振り向く
その隙に逃げ出そうと身を捩ったジークだが、容赦なく傷に程近い位置を鷲掴みにされ声もなく男の胸板に凭れかかった



「お茶目なオレは忘れてました。リカルド氏に用事があったということをっ」



男は何故かジークの手を引いて引き摺り
ひょこひょこと四人の傍へと歩み寄って行った
自分に拒否権がないと悟ったジークは渋い顔で溜息を吐く


リカルドというらしいヒットマンの男に、イリアは同行するよう説得しているのだが
中々に手堅い、自称仕事熱心であるリカルドは首を縦に振る気配すらない

イリアが項垂れ、諦めかけたその時、最低最悪の嵐は到来した






「などと、緊迫した雰囲気など気にせずに、登場するオレ」







+ + +
題名は"ブラックヒットマンピンククレイジー"と読んでみたり。



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