絶P | ナノ
一喝






――天上で、ラティオとセンサスが分かれて、争った理由

地上を天上に戻すか、戻さないか

天上も地上からの信仰で支えられていた、しかし、長い年月がたつと信仰が薄れてしまった
ラティオ側が地上人の魂を狩ることで維持していたが、それに反感をもったのがアスラ率いるセンサス

地上は元々天上だったのだからと、センサスは地上と天上を統合し
世界のバランスを元に戻そうとした――







 笑う
   笑う


「はは!!勝った勝った!イリアを守ったぞ…僕はアスラなんだ」


ルカはどこか狂気染みた笑みで天を仰ぐ
その手には返り血のこびり付いた大剣

戦場に来て二人目に出会った転生者は、イリアをイナンナと見做し
我々を捨ててセンサスへ下っただの、要約すれば裏切り云々という内容を前置きにして
例に倣い神の姿へと成り変った転生者は、イリアを守りたい一心で地面を蹴ったルカに両断された


身体が熱く、昂っていた
かと思えば呼吸は全く乱れず、興奮だけが込み上げてくる
同時に喉の奥からは止め処なく笑声がわき出した


「この僕がラティオの雑兵なんかに負けっこないんだから!はは、はははははははっ!!」


「あんたねェッ!」



ルカの笑いは、不信感に満ちたイリアの声に遮られる
ふと正気に戻った少年は笑みを引っ込めて、どうしたのかと首を傾げた
感謝されると思っていたのだが、イリアの態度はとてもそれとはかけ離れている

(どうしたんだろう、)


「ちょっと変じゃない?戦場とはいえ、人の命を奪ってんのよ?あんなに戦場に出るのを怯えてたじゃないの」


あ、とルカは小さく声を漏らして俯いた
また恐怖が戻って来たのだろうか



「人を殺して、そして高笑いなんて、あんたどうかしてる!!」



どこか悲痛なイリアの怒鳴り声
はっとなって、ルカは翡翠色の目を見開き、そして逸らした




「……空気読んでるな、ベルフォルマ君」

「お互い様じゃねーの」


肩にコーダを乗せたジークとその隣のスパーダは
彼らの傍にいると居心地が悪いのである程度の距離を取って見守ることにしていた

スパーダは十七歳で、ルカとイリアよりも二つ年上だ
研究所でも感じたことだが、彼は不良でありながらもいい兄のような存在らしい
なあ、というスパーダの呼びかけにジークは首だけを捻って振り返る
紅い瞳が瞬かれ、すぅ、と細められた


「気になってたんだけど、、ジークっていくつ……ッ!?」



 カカ
   カカ ッ



スパーダの両脇をジークの投げナイフが通過し、離れた位置にある木の幹へ深々と刺さった
突然の出来事に、心臓をばくばくと暴れさせるスパーダは
顔を引き攣らせ、一歩踏み出してそれはもう凄い形相でジークを睨みつける


「テ、メ、ェ!何のつもりだ、あァ!?」


子供が見れば泣いて逃げそうな形相の彼を、涼しいジークは真正面から見返す
今にも掴みかかってきそうなスパーダから数歩離れて、誤魔化すようにひらひらと手を揺らした



「其処に敵がいるような気がしたがウサギだった」

「ケッ、悪趣味な冗談だぜ…」

「それより少年よ、また修羅場が始まっているぞ」


ほれ、とジークが顎で指した先には何故かチトセの姿があった
またイリアが爆発しかねないので、スパーダは積み重なる出来事に苛立ちを募らせながらも三人の傍へ歩み寄る



「おい、ここは戦場だぜ?非戦闘員がウロチョロするとこじゃねーだろ?」



彼の割り込みによって、本格的な修羅場が再び訪れることはなさそうだ
ただ、イリアとチトセの仲はどうやっても取り持つことすらできないだろうが
だがジークはそれよりも、先刻投げたナイフをじっと眺めている

何かがおかしいのだ、例えば、そう


(一本、足りない……?)


木の幹に刺さっているのは三本
彼は確かに四本投げた、はずだった
茂みにでも落ちてしまったのだろうか
ジークは一応までに三本を回収し、懐へ収める

「気の所為、か?」

確かにこの辺りでガラム兵と思しき気配を感じたのだ
しかし既に日が落ちて薄暗い森では探すことは不可能だろうと
敵兵の捜索と、行方不明の一本は諦めることにした




「おーいジーク、早く行くぞ!こいつが案内してくれるってよォ」



敵はもう撤退したんだと、そうスパーダに呼ばれ、やや急ぎ足でチトセの背を追う途中
ぎくしゃくした距離を取ってイリアの背にちらちらと目をやっているルカを発見し、軽い足取りで近付く
特に何も言わず、その背をぽんと叩けば
ルカはどう解釈したのか、「い、イリア!」とぎこちなく声をかけた

イリアは不機嫌全開で「なぁによっ!」と返したが、恐らく問題はないだろうとスパーダが言った

先を歩くチトセ、スパーダ、ジークに、二人が追いついた時
ルカはとても晴れやかな表情をしており、イリアはそれを気持ち悪いとからかっていたとか


(初めて名前を呼んでもらえた!)





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