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三角関係ですか





戦場に着いた一行は無駄に声の大きい指揮官に鼓舞、または煽られ、のろのろと戦いへ赴こうとしている
その指揮官という人物がまたある意味曲者で、粗暴な物言いの裏腹に相手を巧みに焚きつける、巧妙な話術を使った
(意図したものであるかどうかは微妙ではあるが)


敵のガラム兵は数で劣るのか、森に潜んでゲリラ戦を展開しているらしく
目に見える範囲での戦闘は行われておらず、周囲はそれなりに静かだった
ルカたちは今から森へ行ってその潜んだ兵士を殲滅してこなければならないそうだが、当の本人は未だに沈んでいる



「…何だろう。嫌な匂いが漂ってる」


背後にどんよりとした空気を背負いながらルカが零し、イリアもそれに同意する
スパーダはその匂いの正体を知っているようで、仕方のないことだと二人を諭した
ジークは周囲の様子を見回して言う


「火薬の匂いと……あと人間が腐る匂い」

「もっと柔らかい表現しなさいよ…」

「腐臭の具合からして結構量があるし…原型も留めていなさそうだ。まぁ戦争中だし一々死体を片づける暇もないのだろうが」


イリアは露骨に顔を顰めてみせ、ルカに至ってはがたがたと肩を震わせている
事も無げに言ったジークに対して、スパーダは感心気味に灰色の目を見開いた


「お前、よく分かるな」

「まぁ…鼻が利くんだ私は」


指先で自らの鼻を示し、目も寄越さずそう言うジークの真意はどこまでいっても不明
もしかしたら自分と会う以前は戦場にいたのかもしれない、と踏んだスパーダがそう尋ねようとするも
ルカの涙声での泣き言に言葉と思考を遮られた



「ああ、もう嫌だ…。具合が悪くなったフリすれば寝かしてもらえないかな?」

「止めときな。あの怖いおっさんにどやされるのがオチだぜ?」


元から重々しかった足を止めて、ルカはレグヌムの陣営を振り返るが
スパーダに言われてそれは嫌だな、と諦め始めるルカ
だがそこで食いついてきたのは、例の邪悪な笑みを浮かべたイリア


「あ、死なない程度にどっか撃ってあげようか?」


彼女は腰の銃にわざとらしく触れて、少年の顔を覗き込む
慌てて身を引かせたルカは身体の前で両手を振って、ついでに頭も横に振って全力で遠慮した
しかし、やはりというべきか、その状況で不良少年が悪乗りしないはずもなかった



「じゃ、オレが軽く斬ってやろうか?大丈夫…、殺しゃしねーよ。慣れてるからな!」


ヒャッヒャヒャヒャ、と特徴的な笑い声を悪どい表情に乗せるスパーダはやはりどこからどう見ても不良だ
ルカは既に半分以上泣いていて、だが、予想外なことに止めを刺したのはジークだった


「じゃあ私が何本か刺そうか。手足の一本くらい腱を切ってやればきっと休める―――」

「ごごごごごめんなさい!ちゃんと戦場に出ますから!」


イリアやスパーダなら冗談で通じるかも知れない、が
ジークの無表情からはそれらを推し量ることが出来ないので
陽光を照り返して輝いた数枚の刃を目にしたルカは「ひぃ」、と声を漏らし、体全体を使って怯える


ルカとジーク以外の笑い声が上がり、場は和んだ、かのように見えた





「ルカ君、大丈夫?怪我は無い?」


背後から近付いて声をかけたのは、少し前に会った黒髪の少女――チトセ・チャルマ
項垂れていたルカは軽く姿勢を正し、強がり丸出しの笑みを作ってみせた


「チトセさん…。だ、大丈夫だよ!だって、まだ戦闘してないし…」


「あら、あんた、どうしてここにいんの?」


チトセとルカの関係はそう悪くはないらしい、が、イリアの態度は明らかに、チトセを目の敵にしている
対するチトセもイリアにいい感情は抱いていないようで、あからさまな態度ではぐらかした
所謂、女の事情という奴なのだろうか、ジークは首を傾げる

ルカとチトセの会話に入り込めないイリアの顔は段々と不機嫌になっていき
やがてその苛々は爆発した




「ちょっと!あたしを無視?こういう扱いキライ!いい加減にしないと…っ!?」



爆発したのだが、即座にスパーダに取り押さえられ二人から引き離される
ついでとでも言わんばかりにジークも腕を引かれて引き摺られた

スパーダは文句を垂れるイリアの口を抑えながらルカへウインクを送る
恐らくスパーダは彼を応援しているつもりなのだろうが
当の少年は銀髪の下で頬を染めロクに目も合わせられない状態だ


「何すんのよ!あんた、敵?敵ね?」

「だ〜ッ!!もう!黙ってろよ!ルカの野郎、いい雰囲気だろ?」


そっとしとこうぜ、と人差し指を口に当てて声を顰めるスパーダと不満丸出しのイリア
やがて勃発する不毛で耳触りのよくない口論を余所に
ジークはその場に屈みこみ、小さな生物と視線をぶつけ合っていた



「なんだおまえ、コーダに何かくれるのかしかし」

「……お前、ネズミか」


紅い目に見つめられてもその生物は物怖じすることなく
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、小さな体で怒りのような感情を精一杯に表した


「コーダはコーダだぞ、ネズミじゃない。それよりも何か食べ物をくれ、しかし」

「味のない干し肉ならあった気が…」

「味がないのかしかし、美味しいのかしかし?」


ごそごそと懐を漁り干し肉を取り出すと
それを与えるよりも先に、コーダと名乗った小動物が奪い取るようにして飛び付いた
「あまり美味くはないな、しかし」などと言いながら、その体長と同じくらいの大きさの干し肉を
コーダは一分もしないうちに、その腹の中へと収めてしまった


(ブラックホールか…?)


脈絡のない話し方をするコーダを開腹したらそこにはブラックホールがあるのかもしれないと
ジークはそんな想像を一瞬して、馬鹿馬鹿しいとすぐに忘れることにした





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