絶P | ナノ
列車パーティ







ガタゴト
  ガタゴト

  グスグス
グスグス


列車が揺れるリズムに合わせて、ルカが鼻をすする
抱えた膝に顔を埋めているものの、膝の部分は涙が沁み込んで変色していた


「ね、ねぇ、聞いた?ぼ、僕ら戦場に送られるって…」


上着の袖で次々と零れる涙をごしごしと拭い、掠れて震えた声で言う
何かを話していないと気が余計滅入るのだろう、ルカははっきりとした発音をすることに必死になっていた


「…そうね」

「らしいな」

「ん」


上から順にイリア、スパーダ、ジーク
三人はルカのように涙を流すこともなければ、至って冷静であった


「何でそんなに冷静なの?ぼ、僕…、怖くって…」


再び泣きじゃくるルカを見た後、イリアとスパーダは顔を見合わせる
イリアは軽く溜息をつき、煮え切らない様子で答えを返し、スパーダもそれに続けた


「あ〜…、そりゃあたしだって怖いけどさぁ…」

「でも、なんつーか…」


適当な言葉が見つからないらしい二人はうーんと唸り、またその回答を待つルカも涙を抑え表情を強張らせている
纏う襤褸切れを敷布にして仰向け横たわっていたジークが何かを思いついたらしく
逆さまに見えるルカの泣き顔を指で示した



「それだ」

「……え?」

「お前を見ていると落ち着くんだ、きっと」


「あー!それよ!」

「そーそー、「お?オレの代わりにビビッてくれてるぞ?」って感じだな」


二人が顔を明るくし、もやもやが晴れたとでもいうかのようにそう言うとルカはまた泣きだした
そんな彼を二人がかりで適度に慰めるあたり根は優しい人間なのだなと、ジークは悠長に観察しながら
懐から取り出した透明な瓶に入った錠剤を数粒手の平に乗せ、水も無しに口へ放り込んだ

偶然それを目にしていたイリアが尋ねる


「あんた、何飲んだの?」

「酔い止め」

「ちょっとくれない?」

「嫌だ」

「なんでよ、ケチ!!」


怒ったイリアは勢いに任せ立ち上がろうとするが
体勢を崩し丁度傍にいたルカに支えられる
どうやら彼女は乗り物酔いが酷いようだ
そう察しながらもジークは錠剤を分け与えることなく仕舞い込んだ

まだ恨みがましい眼で睨みあげてくるイリアを真っ直ぐ見返していると
反撃だか復讐だかを思い立ったのか、彼女は上体を起こしてジークの全身を見てにんまりと笑った



「あんた、随分ヘンな格好してるわよねェ〜」


「そうか?」


「あ、オレもそれ思った。イリアもだけどよ、ジークお前、レグヌム辺りの出身じゃないだろ」



尋ねてくるスパーダに対し首を縦にも横にも振らず
「ああ」とだけ返したジークは未だに仰向けに寝転んだままであり
反対側から近づいてきたイリアがずぃ、と顔を近づける
その時ルカが何かを言いたそうにしていたのを、スパーダだけは気付いていて
彼の背を勇気付けるようにバシッと叩いた(ルカは咽た)



「それを抜きにしても変な格好よね。第一、剣がないのに皮帯なんかかけてるし、銃使わないのに持ってるし、左右でズボンの長さ違うし、セーター首まで覆ってると思いきや袖なんかボロボロだし、ベルトはぐるぐる巻きだし、クマは酷いし、髪は異常に長いし……」


ああそれからそのマントも襤褸すぎじゃない、と少年の身体の下に敷かれた布の端を摘まむ
イリアに誰かの悪口を言わせると止まらないようなので、ジークは途中からほぼ聞き流していた

だが彼女の言うとおりジークの服装は微妙だった
服そのものは問題ないが、ところどころ、端々がおかしい
例えば最初に例に挙げられた皮帯は、長剣やルカのような大剣を装備するためのものであり
しかし彼の背には帯だけがあって剣そのものは存在しない
左右ですその長さが違うズボンも中々におかしいが
彼のおかしい所を一つずつ挙げていくとキリがないので終わりにする


ジークはイリアに摘ままれていた布を引き寄せ、徐に抱きこんだ



「これがないと落ち着かないんだ……」

「はぁ?何よ、子供みたいねそれ」


小馬鹿にするように言われても、ジークは「否定はしない」とだけ言って布を抱きしめた
彼らの緊張感のないやりとりを見ていて幾分か落ち付いたのか
ルカのしゃくり上げる頻度は段々と少なくなっていき、先刻よりも高低差のない小声で言った


「ねぇスパーダ、ジークって……大人だね」

「……そうかァ?」

「だって、きっと僕らと同年代だろうけど凄く落着きがあるじゃない」

「まぁ、確かにな」



スパーダは暇になったのか、キャスケット帽を脱いでくるくると回して遊び始める
目線の先ではイリアとジークがじゃれていて、一方的であるように見えたがある意味見てて飽きなかった

(ま、ルカには悪いけどよ)

まだ不満と不安を湛えた表情を浮かべるルカを横目で見て
スパーダはもう一度、今度は優しめに彼の背をぽんと叩いた


それから間もなくして列車は止まるが
つまりそれは戦場に着いたという意味であり
現実に引き戻されたルカは再び涙を流し、何気に優しい兵士から慰めを受けることとなる





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