絶P | ナノ
検体駄目、絶対。





「うわぁ……凄いや…」


スパーダは戻ってくると、未だに呆けているルカの頭をぽんぽんと叩く
そこでやっとルカは意識を引き戻した


「やれやれだ。お前、ホントにアスラか?なっさけねぇなぁ」


何かを思い出したらしい彼の口ぶりに、ルカははっとして自分より背の高い少年を見上げた
その表情には、どこか歓喜のような感情も入り混じっている


「じゃあ、君はやっぱり…」


言いたいことを察したスパーダは首を縦に振った
彼の表情にも懐かしげなそれが滲みだしている



「オレの前世は聖剣デュランダル。天上において「この刃、斬れぬ物は己のみ」そううたわれた無比の名剣さ」



前世の談義に花を咲かせるルカとスパーダ
それに前世がイナンナであるイリアも加わり、一人あぶれたジークは退屈そうにその場に座り込んだ
前世の繋がりとは思った以上に強く、人と人を引き合わせるようで、ある意味厄介なものだった
自分は転生者ではないので関係ない、と割り切ったジークは
少し離れた位置にいる三人に近づくオズバルドの、揺れる腹部を眺めて内心で嘲笑っていた



「その辺で、無駄話を止めておけ…なかなかの戦闘力だな。これなら期待出来る。検体にするのは惜しい」


話を中断され、ムッとした様子のイリアとスパーダが振り返り
刺々しい声音を取り繕うことなく噛み付いた


「ほめられたって嬉しかァないね」

「んで?あたし達、合格なワケ?」


「ああ、最高点をやろう。だが――」


オズバルドは体ごと後ろを向き、座り込んで天井を見上げていたジークをじっと見る
視線に気づいているにも関わらず目を合わせようともしない少年に少なからず腹が立ったのか
彼は太くむくんだ人差し指をジークに向けて言った



「こいつは検体にする。全く戦えないならその方が効率がいいからな」


そう言われ、驚いたのはジーク以外の三人
何故か当の本人は大きなリアクションも見せず
それ以前にオズバルドの姿を目に映してすらいない

彼なら反論も抵抗もしないと踏んだスパーダは慌ててジークを庇うように前に立った
当の本人は危機感の尻尾も掴ませないほどに呑気で、首元を覆う襟を直していたりする


「ちょっと待てよ!こいつを検体にって、何するつもりだ!?」

「兵器の動力源にする」

「な、そんな……っ」

「何よそれ!」


オズバルドが指示を出せば、今にも殴りかかってきそうだったスパーダをグリゴリが羽交い締めにし抑えつける
おどおどするルカとがみがみと反抗するイリアの声など聞き入れられず
そして二人のグリゴリがジークを連行しようと手を伸ばす
確実にいい運命が待っているとは思えない方向へ導くであろう手が近付いても、少年は座り込んだまま動かない


「オイ、逃げろジーク!」


「無駄な抵抗はするなよ、大人しくついてこ、…っ!!」



コ ッ

  コッ


言葉を飲み込んだグリゴリの右側の頬に、一本の赤い筋が走る
もう一方のグリゴリの、今にもジークを捕らえようとしていた掌にも同じ線

事は一瞬で、目にも止まらなかったが
その赤い線からつー、と血が流れるのを見て
ジーク以外の人間はやっと事態を理解できた


彼らの背後の壁に刺さっているのは手のひらに収まる程度の、短剣
それをジークは見きれないほどの速さで投げたのだ



「寄るな触るなこの下種が。虫唾が走る」



あくまで平坦な声で紡がれた悪態はそれだけで恐ろしさを醸し出す
ルカはともかくスパーダやイリアでさえ言葉を失っていると
ジークはのろのろと立ち上がって硬直するグリゴリに顔を近づける

すぅ、と血色の瞳が細められた



「分かってると思うけどー…僕、天術なんて使ってないよ?」



この意味分かるよな、と

やはり抑揚のない声音で言われれば、彼らの背を冷や汗が伝った
少年は袖の中から投げたものと同じ短剣を取り出し、ちらつかせる



「それでもまだ俺に触りたいならあれだ、次は狙いをこちらから見て左斜め上に10cm程ずらそうと思うがどうか」



ジーク側から見て右頬に傷を作った男への、狙いを言った通りにずらせば脳天を貫くのは嫌でも分かる
離れた位置にいながらも同じようにして脂汗を流していたオズバルドは、苦々しげな声で「お前も合格だ」と告げた

ただし、合格したとしても行先は激戦区であり
ルカはぐすぐすと泣きだし、イリアは一人考え事に耽り、スパーダはグリゴリに因縁を付けて殴られたりと
凍りついていたといっても過言でない空気は、徐々に溶解を始めていた






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