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昔の話と今の話






血と、肉と、死の臭い
鼻につくその悪臭の中、一本の槍が宙に浮いている
それを見つけた少年はそっと目を細めた


「ああ……やっと、見つけた。
ゲイボルグ……君は使い手もいないのに、一人で戦い続けているんだね」


「ヒヒ、ヒヒャハハハ!誰だっけなァお前、どっかで会ったことあったかァ?」


狂気染みた槍の声に臆することなく少年は―――ウルカは、禍々しい気を発する槍に近づいていく
使い手の命をも枯らすと口伝によく聞くその槍に向かい、彼は何を思ったか手を伸ばした
槍は訝しむかのようにその動きを一瞬止める


「何の、つもりだァ?オレに殺されにきたのか?」


「違う。私は―――僕は、ね」


ウルカは何か、鎧を脱ぎ棄てでもしたかのように雰囲気をがらりと変える
表情も、言葉遣いも声音も、全てがありのままの彼となり
少年は何を思ったか、伸ばした掌に触れた槍の柄を、強く、強く握った




「僕は、自分の責任を果たしに来たんだよ。だから、一緒に戦おう、
ゲイボルグ




いつか彼の有名な鍛冶師に銘打たれた槍は、狂った意識を主張するかのような甲高い笑声を一頻り上げた後
自らの答えを示し、大人しくその小さな手に収まった



「いいぜェ、精々俺を楽しませてくれよ……兄さん?ヒャッヒャッヒャッ!」


「兄さん……ね」


ウルカはふっと自らを嘲るように皮肉な笑みを浮かべ、すぐに消した
その代りに無垢とも取れる笑顔を顔に貼り付け、それを仮面とする
槍を慣らすために軽く振るい、向けた切っ先の延長線にいるのは、敵であるかどうかも分からない神々の群れ

それらがラティオか、センサスであるかなど、荒野に立つ一人と一本にとってどうでもいいことで
血を求めてその身を震わす槍、応えて駆け出す狂気に染まり始めた少年



終焉は、結末は目に見えていた


近いうちにセンサスの将と対峙することなど、容易に予想できたから



(だけど、ごめんね、お師匠)



血を吸い過ぎた槍は小柄な手にもよく馴染み、振るわずとも勝手に相手を切り裂いていく
手に残るのは断たれる肉の感触と、飛び散った鮮血の飛沫
例え、やがてそれらが少年の意識を蝕んでいくのだとしても

後悔など、したくはない













白昼に見た夢は、ここまでだった
ふと、聞こえてきた、少しだけ呆れを滲ませた声が、意識を現実へと引き戻す



「……お前、大丈夫か」



石床に横たわっていた長髪の、中性的な少年が薄く目を開けば
其処にいたのは、若草色の髪に灰色の瞳を持ち、鶯色のキャスケット帽を横に被ったどことなく不良染みた少年と目が合った

しかも、上半身だけしか存在していない



「ああ……人が地面から生えている。奇怪だ、初めて見た」



頬に痣、唇の端に新しい切り傷を作った少年は無感動で抑揚のない声で言葉を発する
緑色の少年は口の中で数度その言葉を租借し、やっとその意味を理解すると眉間に皺を刻む



「あのなァ、人間が地面から生えるわけねーだろうが」

「生えているぞ私の目の前で」



石床に横たわったままでそう言う目前の少年に痺れを切らしたのか
生えている、と称された方の少年は床に手をかけ体全体を外界へ晒した
おお、という短い感嘆の声を丸っきり無視し、彼は未だに体勢を変えようとしない少年をふてぶてしく見下す
その腰には二本の剣を帯びていて、剣士であるのかもしれない


彼の指先が指し示すのは、先程まで彼が"生えていた"場所
――そこには、丸い穴と、蓋があった





「その目よーく見開け。オレはマンホールから顔出してただけだっつの!」





出会った時から、物語は始まった



to be continued...
09.0621.



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