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昔の話





真赤で、とても、暑く熱いその場所に金属質な高音がよく響く
汗一つ滲ませず涼しい顔をした少年が目前の光景を眺めていた




「お師匠、どうですか聖剣の出来は」



静かな、しかし期待に満ちた声で少年は言う
表情は真面目だったがその目は屈託のない、まだ子供らしさの残るそれだった
彼の目線の先にはがっしりとした体形の肌の赤い男
そして、まだ熱の籠る、聖剣と呼ばれた大剣
彼は最後に鎚を振り下ろし、カン、とよく透き通った音を立て、満足そうに剣を見て目を細める

その目を見て、少年は確信した
やっと完成したのだ、二人が、天上の望んだ聖剣が



「さあ、お前に魂の息吹を。名はデュランダル。この名をその刀身に刻め」


師匠である男の堅い声に少年は息を飲む
二人は剣の反応を待った
やがて、口など存在しないその刀身から、声が発せられる



「こ こ は どこだ、お前たちは誰だ…」


少年は静かに歩み寄り、男と顔を見合わせる
口元が緩むのを自制し引き締め、もう一度剣へとまっすぐな双眸を向けた
デュランダル、と自らが銘打った聖剣に、男はどこか恭しさを滲ませながら名乗る



「ここは、私の鍛冶場だ」


それから、バルカン、という彼の名と、デュランダルの親であることを告げた
次にバルカンと名乗った男は少年に目配せし、その光景に魅入っていた彼がふと意識を引き戻して慌てて一歩前に出る
彼はひとつひとつ、丁寧な所作で剣に対し深々と一礼した



「初めまして、私はウルカ。ウルカヌスです。これでもバルカンの弟子で…ええと、彼が親ならば私は…貴方の兄でしょうか。少々おこがましいかもしれませんが」



そこで、少年――ウルカは初めて少年らしく、はにかんだ笑顔を見せる
剣はそこで暫く黙ると、重々しく尋ねた


「我は何のために生まれた」


「多くの者を活かすため。だが、それも主次第か」


強い意志を感じさせる声音で紡がれた言葉
だが、バルカンが僅かに表情を曇らせたのをウルカは見逃さない
一人と一本に悟られないよう、彼は静かに唇を噛み締め彼らの会話を黙って聞いていた



「我は剣。武具に過ぎぬ我が、多くの者を活かすため、だと?」

「ああ、そうとも。そう願って、私はお前を作った」


そう言ったバルカンの表情と声には、確かに親心のような優しさが滲んでいる
その表情のまま、どこか懐かしむように、バルカンはぽつりぽつりと語り始めた



「一つ、話をしよう…我が息子よ。お前の前に一本の槍を作った」



ウルカは唇の間から声が漏れそうになるのを必死に抑えて目を逸らす
バルカンの口から語られる、強さの定義を履き違え、狂気に目覚めた愚かな槍の話
ただ一つ付け加えるとするならば、『どんなものでも貫く』ように、と
誰よりも強く願ったのは他でもない、ウルカだった

武器の定義について場を制すること、と説くバルカンと、それに疑問符を浮かべるデュランダルの声は既に聞き流されていて
秀麗な鼻梁には深く、苦々しげな皺が刻まれた




(私の、責任だ――奴が狂気に目覚めたのは、私の、)

(師が過ちを犯し、自らを愚かだとのたまうならば、その責任は、私が負うべきもの)

(私がこの魂を以てそれを負いましょう)





(君を見捨てはしないよ、出来ないんだ、
ゲイボルグ)



ウルカは静かに目を閉じ決意を固めていく

其処で一度、場面は点滅、赤から黒へ暗転し切り替わる





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