「Nさん!」
「…名前」
Nの城。ここはそう呼ばれてる。
ここでたった今まで、父さん…ゲーチスと名前のポケモンバトルが行われていた。
僕もその前にバトルをしたけど、勝てなかった。
レシラムが選んでくれた『英雄』は、ゼクロムが選んだ『英雄』には勝てなかった。
父さんとのバトルが名前の勝利という形で終わって、一段落ついて。
僕は気付かれないようにそこから出た。
そのはずなのに…。
名前が、僕の後ろの方に立っていた。
「Nさん…何してるんですか?」
「……」
「ねえ、何で、そんなところに立ってるの」
名前の言葉に、僕は何も返さない。
返せないんじゃない。返さないんだ。
……返したら、決心が鈍ってしまうような、気がして。
「Nさん、答えてよ…」
「名前、向こうで君の仲間が呼んでるよ」
「じゃあNさんも行きましょう?一緒に、行きましょう…?」
名前が泣きそうになりながら僕に言ってくる。
駄目だよ、そんなのは。
僕は君達のところには、混ざれないのだから。
「名前」
「そこから離れてよ、Nさん…お願いだから…!」
「名前、」
好きなんだ。大好きなんだ。愛してるんだ。
数学的でないこんな気持ちをまさか僕が抱くなんて、自分でも驚きだ。
それでも、僕は。
名前に伝えることなくここを発つ。
「サヨナラ」
「Nさん!!!」
名前の伸ばした手が、僕のシャツを掠めた。
僕はレシラムに乗って、名前のいるそこから離れていく。
名前が膝から崩れ落ちたのが見えた。
「Nさん……っ!」
ねえ、名前。
実は僕、知ってたんだ。
「…好き、でした……!」
名前が僕のこと好きでいてくれてること。
僕に恋をしてくれていること。
知っていて、それで僕は逃げた。
ゴメンね。それでも僕は。
「名前、君が好きだよ」
何でだろう。
レシラムに、雫が垂れたのは。
名前。
叶うなら、君のその恋が。
最初で最後の恋であればいい。
そうすれば僕は、きっと一生シアワセでいられるんだ。