昔からこの世界が嫌いだった。
理不尽で窮屈で息苦しいこの世界が大嫌いだった。
「僕もだよ」
そう言って困ったように笑うあなたも嫌いだった。
この世界が嫌いだと言うのに愛しそうに生きるあなたも大嫌いだった。
「きみはすべてが嫌いなんだね」
「悪い?あたしは自分以外が嫌いなの。自分の事もあまり好きではないけれど」
「だからといって二日に一回死のうとしないでほしいなぁ」
あなたは眉を下げて言った。
けれどあたしはそんなこと望んでいないのよ。
放っておけばいいじゃない。
不運のくせしてどうして毎回あたしを見つける為に走り回るの?
「だって、放っておけば死ぬだろう?保健委員長として見過ごせないよ」
「卒業してもそう言うつもりなの?」
「……そうかもね」
傷ついた人を放っておけないとあなたは言うけれど、そんなあなたも傷つけた。
六年生なのだから、殺めた事もあるでしょう。
「ただの偽善者だわ」
「それでもいいよ、今きみを助けられるなら」
「お礼なんて言わないわよ」
「いらないよ。きみが生きていてくれるならね」
あなたはあたしをどうしたいの?
あたしなんかが生きていて、得することなんてないでしょう。
ただの薬や包帯の無駄使いだというのに。
どうして毎回助けるの。
「頼んでいないのよ」
「うーん、でもきみの心は死にたくないって言ってるよ」
「言ってないわ」
「言ってるよ。僕には分かるもの」
「あたしの心よ!干渉しないで!」
包帯を巻いていたあなたの手を叩いた。
キッと睨みつけたらどこぞの事務員のようにヘニャリとあなたは微笑んだ。
何よ、何が嬉しいの?
「それが本当のきみ?」
「……」
「僕はきみの心が分かるし、分かりたいって思ってるよ」
「……どうして、」
「好きだもの。きみのこと」
あなたは、おかしいわ。
誰もあたしのことなんて好きにならないのに。
あたしだって、あたしのことなんて好きじゃないのに。
何なの、あなたは。
「ずっと前から、きみを初めて手当てした時から好きだった」
「何年、前の話なの」
「二年前の夏だよ。実習で怪我をして、山田先生にかつぎ込まれた」
「……そう」
手裏剣が、左腕に深々と突き刺さったあの日。
出血がひどくて、途中で意識を失ったあの日。
たった一度、一瞬だけ温かみを感じたあの日。
「あの時、あなたが手当てしたのね」
「うん。まあ新野先生が八割くらいやってたけど」
はは、と軽く笑って優しい目であたしを見た。
「きみは気絶していたから僕を知らなかったんだよ」
「言えばよかったじゃない」
あたしがそう言うとあなたは首を竦めた。
「思い出してほしかったんだ。僕のことを」
「……本当、バカね」
そんなことの為に毎回怪我を治したなんて。
本当に、もう、バカなんだから。
「処置は終わったの?じゃあね」
「え、あ、うん」
「……」
カラリと戸を開け、少しだけ振り返った。
目をパチパチしているあなたの顔を見て、一言。
「またね、善法寺くん」
永遠だと思ってた
この関係に、さようなら。
「…僕の名前、呼んでくれた…」
意味不。