「ただいまー」

「銀さん!お帰り……、」


また、だ。
また銀さんが怪我をしている。


「ただいまアル!」

「名前さん、ただいま戻りました」

「あ…お帰りなさい新八くん、神楽ちゃん」


新八くんも神楽ちゃんも傷だらけ。
ところどころに血が滲んでる。

そして、


「(あの新八くんが…真剣を持ってる)」


穏やかな彼が真剣を持っている。
それだけで、またわたしに内緒で戦ってきたんだと分かる。
だって、今までも何度だってあったから。


「銀さん、手当てしましょう?」

「舐めときゃ治る」

「治りません!……さ、早く」


分かってても何も聞かずにあなたを手当てするわたしは、あなたの何なのだろうか。
ただのお手伝いさん?ただの家政婦?ただの、知り合い?
怖くてそんな事聞けないけれど。
少なくとも、ただの知り合い以上である事を願う。


「……銀さん、何されたらこんなに傷ができるんです?」

「あー…あれだ。猫に引っかかれた」

「…ふふ、大変ですね」


引きつった笑いでなければいいけれど。

猫に引っかかれた傷?そんなはずない。
だって、どう見たって刀で斬られた傷だもの。
銀さんは気づいてないかもしれないけれど、銀さんの傷を診ていくうちに詳しくなった。
それにこの傷は、


「(銀さんの体の、そこかしこにたっくさん……)」


何も教えてくれないのね。
年下の新八くんや神楽ちゃんでさえ知ってるのに。
戦力にならないわたしは、不要ですか?


「…はい、終わりましたよ」

「おう。サンキュー」

「銀さん、」

「あ?」


聞きたい。何をしているのか。
でも教えてもらえない。


「――…何、でも…ありません」

「?」


銀さんは部屋から出て行った。
手当てしていた姿勢のまま、ギュッと手を握りしめる。
爪が刺さって、少し痛い。


「……っ」


目からポロリと零れ落ちるそれ。
ゆっくり着物にシミを作っていく。


「も…限界……っ」


ごめんなさい銀さん。
ごめんなさい新八くん、神楽ちゃん。

もう限界です、

みんなが傷つくのを間近で見ながら、何もしてあげられないわたしは、いりますか?
戦力にならないわたしは、いりますか?
全てが傷つくのを恐れるわたしは、いりますか?


「っ……紙…ペンどこだっけ、?」


わたしは、わたし自身は、必要がないと思います。
だから…――




「ふあー…はよー」


11時に和室から出た。
いつもなら掃除をしながら「朝ご飯食べますか?」と笑顔で聞いてくる名前がいない。
買い物か、と思いながら胸の内にモヤモヤしたものが込み上げてくる。
酒の飲みすぎとか、そういうモヤモヤとは違う。
何か、嫌な事が起こりそうな……。


「…ん?」


俺の机の真ん中にポツンと置かれた、手紙。
宛名は俺たち「万事屋」。
送り主は、名前。
封を開いて中に入っていた便箋を広げる。
あいつらしい小さな可愛い字が並んでいた。


「――…っ、名前!!!」


後ろで神楽がうるさいと怒りながら起きてきた。
そんな神楽はほっといて寝巻き姿のまま玄関に走る。
扉を開いて街を見れば、すでに社会生活を始めた人が所狭しと歩いていた。

そこに名前の姿はない。


「…っ、ざけんな……!」


ぐしゃ、と手紙が潰れた。


――――――――――――

拝啓 万事屋様

誠に勝手ながら、辞めさせていただきます。
万事屋のみんなを嫌いになったわけではありません。
ただ、辛かった。苦しかった。
わたしにも、全部ちゃんと言ってほしかった。
もう耐えられません。
今までありがとうございました。
そして、





みんなが大好きです。

名前より

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