「はい、熱いですから気をつけてくださいね」
「サンキュー。……なぁ椿」
「なんでしょう、っ!」

 椿が湯気の立つカップを机に置くのと、安形が椿の名前を呼んだのはほぼ同時だった。湯気が二人の間を遮る薄い壁となって立ち上っている。安形は椿の緩みなくきっちり締められたネクタイを引っ張った。ばつん、ネクタイが引っ張られたことによって、勢いよくネクタイピンが弾け飛んだ。そのままピンがからからと金属特有の高い音を立てて、床を滑って視界から消え失せた。あ……という椿の口から思わずこぼれた驚きを気にするでもなく、安形はネクタイから手を離さないで自らへと引き寄せる。やがて安形と椿の顔が目と鼻の先の、いつ触れあってもおかしくはない距離まで近づいた。椿はようやく観念したのか目を閉じかけた。
 そのときだった。扉がガラガラと騒がしい音を立てながら開いたかと思うと、口々に言いながら生徒会のメンバーが入ってくる。

「ごめんね、待ったでしょ?」
「うわっ!お、遅かったな」

 安形はネクタイから急いで手を離し、両手を上げて降参のポーズをとり、椿もネクタイピン探さないと、と安形と距離を取った。机に置いた、いまだ湯気の立てているカップに誤って手を引っ掛け、安形の腹部分に思い切りカップの中身をぶちまけた。すぐに、あっつー!!と安形の悲痛な叫びが上がって、すすすすみません会長!と声が続いた。




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