つばき、これまでに何度となく呼んだ名前。腕の中の椿がなんですかと見上げた。大きな瞳に安形が映る。瞳の中の安形はしだいに大きくなっていき。
 ちゅう、頭に響く聞き慣れた甘い音。柔らかい感触。椿の瞳が吃驚に揺らいで夢を見るようにゆるゆると閉じられた。くちびるを舐める。椿はこれに弱い。力が抜けるのか、ふぁ、とため息のような声を上げて小さく口が開かれる。くちびるが震えている。その隙間に舌をねじ込み、逃げようとする椿の舌を捕まえて絡めとって吸いつく。
 ちゅる、だとかじゅうと水音がこだまする。前に椿はなんだかこの音は羞恥を煽って恥ずかしいのだ、と言っていたのを思い出す。
 あぁ、酔いそうだ。脳が、なにもかもが、水音にとろける。

 息継ぎをしようとようやくくちびるを離すと酸欠で頬を紅潮させた椿が息荒くぜぇはぁ、安形、さ…んとにらんだ。まったく怖くはないのだが。

「お?椿?」

 涙で潤んだ椿の瞳に、安形の顔がぐにゃりと揺らいだのが見えた。



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