バレンタインなんて、ボクには無関係の行事なんだと心中でひそかに言い訳した。チョコレートケーキを焼こうと思って、失敗した。ただそれだけのことだ。
 それでも、料理は慣れてきたはずなのだけれど、と少し残念だった。確かに、今まで一度もケーキだとかクッキーだとか、焼き菓子類なんか焼いたことはない。それでも。ケーキが失敗したことよりも、材料が尽きてしまったことよりも、何よりも残念なのは、安形さんに渡すことができなくなってしまったことだ。朝起きてきた安形さんのうれしそうな顔が見れないなんて。
 バターの油分の浮いた湯につけたケーキ型に、水が落ちた。水は深く沈んだあと、まざっていった。大きく水面が揺らいで、波紋が広がった。シンクに落ちた手の影。、水面に映った電気が月のようだった。目を閉じて、息を吸う。仕方ない、チョコレートケーキは諦めよう。スポンジを握って、後片付けの残骸に手を突っ込んだら、湯は早くも水になっていた。



110214

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -