唇をはなすとどちらのものとも分からない唾液が糸を引いてオレと椿を結びつけた。透明な糸は光を受けて反射していたが、突然ぷつりと切れた。一瞬ひやりとしたかと思うと顎に張り付いていた。
 椿は酸素が頭に回っていないのかどことなく焦点がおかしい。オレが声をかけると合わない焦点でへにゃと力なく笑った。頬が赤い。
 後頭部に手を回すと、赤かった椿の顔が青くなった。またですか、と口を引きつらせたが最後、オレは顎に舌を這わせた。かすかにへばりついた唾液を舐めた。正直、味なんてない。オレの唾液の方が多いだとか、椿の唾を飲み込んだんだ、なんてちっとも分かりゃしなかった。 そのまま舌は首筋を撫でた。緩やかな喉仏。薄い皮膚の下の骨をやわくやわく噛む。っう、咽喉の奥に引っ込められた声が遠く聞こえた。この声がオレだけに聞こえたらいいのに。いっそこの咽喉、つぶしてみようか。緩急をつけながら歯に力をこめていく。思い切り噛むと痛い!と椿が嬌声を含む声で叫んだ。
 それからまただんだん歯に込める力を抜いて、ようやく喉仏から口を放すと、赤い跡の残る歯形ができていた。凹凸を舐めてやる。もっとくっきりへこんでたら舐めがいもあったろうに。そう思ってしまうオレは嗜虐的な性癖でももっていたのだろうか。
 椿は、オレにこんな変態的要素があると知っていただろうか。引いたかもしれない。怯えているかもしれない。
 椿、と名前を呼びながらどんな表情をしているだろうと顔をのぞきこむと、うっすら涙が滲んでいた。
 かいちょ、とまばたくと睫毛が揺れた。金色の瞳からこぼれた涙はなぜ金色ではないのだろうか。泣くなよ椿、ごめんな、と謝りながら舐めた涙はしょっぱかった。



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