(!)同棲/若干血表現
「あっ」
狭い台所から椿の声があがった。
「ん、どうした?」
何事かと顔をのぞかせると、椿は眉間に浅いしわを刻んで人差し指を押さえている。オレに気づくと苦々しく笑った。
「指切っちゃって、思ったより深いみたいです」
きつく握りしめた指先からヘモグロビンと血しょうで構成された液体が伝い落ちる。
「結構出てんな。こういうときってなんだっけ、止血圧迫法、とかか?」
「大丈夫です」
医者の息子は、短く息を吐き出しながら口にくわえた。オレは医学について知識はないから詳しくはよくわからないのだが、ばい菌が入ることはないのだろうか。
オレがそうやって考えている間にも、椿は血が止まらないのか口から手が離れる様子はない。ふと視線を移すと、椿の趣味で手作りのシャツの袖に血が付着していた。赤い血は白いシャツによく映える。椿のDNAが、遺伝子がほしい。
「貸してみ」
指を引き抜いて、オレの口でくわえる。歯に当たる指から骨のかたちがよく分かる。意外にも、関節は少し太めでごつごつしている。
唾液なのか血なのか、両方なのかを嚥下したいがために指を吸った。ちゅぷ、水音が立つとはっと椿の顔が赤くなった。
血を飲むなんて吸血鬼みたいだな。オレの身体の中で椿の遺伝子と混ざり合ったら、やがてひとつになることはできるのだろうか。それとも、淘汰されてしまうのだろうか。
オレは医学について知識はないから、詳しくはよくわからない。
101205