(!)同棲





 ボクは何かを敷いている。重力で倍増されている圧迫感による背骨、いや、背中一帯の痛みに目が覚めた。身体の下に回された腕が背中の異物感の正体であることに気づいたのは少し前のことだ。考えれば考えるほど、思考が冴えてきた。ぼんやりしていれば眠れそうなものを、さらにまとわりつく冷気によって、布団で遮断されていない首から上が無理に冴まされる。顔の神経までもが凍ってしまったようだ。
 今は何時だろう。頭にエンジンがかかってきているおかげで、明日の予定でも考えていなければ気が済まない。かといって、途中で寝てしまえば、起床時間に支障をきたさないともいえない。時間によってはそのまま起きていようかと考えたのである。しかし時間を知るすべがない。安形さんは携帯のアラームをかける人だし、目覚まし時計はうっかりボクの部屋に置き去りにしてしまった。安形さんの布団で眠るのは初めてというわけではないのに、こんなときにボクはなにをやっているんだ。いや、そもそも、安形さんが早く早くとボクを急かしたんだっけ。腕枕したいから早く寝ろだなんて。カウントダウンを始めるものだから、ボクも慌てて布団に潜り込んでしまったんだった。
 長い間、こうして回想に耽っていたが、どれだけの時間が経ったのかもよく分からない。なにせ暗いのだ。よほど真夜中なのか、車の走る音さえ聞こえやしない。今日は、あの声は聞こえない。寝静まったのだろうか。
 ところで、相変わらず背中が痛い。ああこんなことなら、腕枕がしたいなんて安形さんの子供じみた駄々に付き合わなければよかった。そりゃあ、うれしくないわけではなかったが、結果的に背中が痛いのだ。なんだか言い訳をしているような気分になって、自分でも恥ずかしくなる。鏡を見ているというわけでもないのに、顔が赤くなるのが分かった。
 小さく頭を振る。とにかく身体を持ち上げれば、安形さんは腕を動かしてくれるだろうか。いや、そんなことをしては、大きくはない掛け布団が浮いて面積が狭くなり、冷気が入り込んでくるじゃないか。そうなれば安形さんもきっと起きてしまう。明日は朝早くからバイトだという安形さんを起こすわけにはいかないのだ。
 暗い部屋で、空気が震えた。どうやってこの腕をどかそうかと考えている真っ最中であった。そんなときに突如として光り始めた携帯電話は、目にまったく優しくはなかった。まばゆい光が世界を白くする。ボクは瞑目しながら、明滅している携帯に手を伸ばした。布団から外は寒いうえ、つかみ取るには距離がもう一歩届かなかった。安形さんを起こさないように細心の注意を払いながら、しぶしぶ起きあがる。あぁ、寒い。空気がボクの腕を突き刺して体温を奪う。フリップを開くと、藤崎からだった。時計を見たら二時四十五分。アドレス変更だと。藤崎はこんな時間まで一体なにをしているんだ。寒さでかじかむ指で電源ボタンを長く押す。またね、と表示されたあとすぐにプツンと画面は切れて、部屋中が再び夜に包まれた。



120309
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