静かな暗い冬の夜を照らす街灯の人工的な明かりのした、ぼくはひた走る。迷惑、だろうか。そんなことを考えながら。全速力で走っているために息があがる。冬もまもなく本番である。痛いほど冷たく澄んだ空気を吸い込んでいくらか温かくなった空気を再び吐き出すことがつらいと肺が悲鳴を上げている。張り裂けそうだ。それでも決して走る足を止めないのは、深く考え事をしたくないという一心からだ。
 何度も会長と歩いた道は、やけに広く感じた。

 部屋の明かりによって、会長は自室にいることが確認できた。何度となく突いたインターホン。黒くて四角いスイッチ。押したあとの若干の合間も、無機質な音声も目を瞑っていても脳内で再生することができる。
 そうしてインターホンを押そうと伸ばした腕が、人差し指が、まるで金縛りにあったかのようにその場で固まった。押してしまってもかまわないのだろうか。迷惑では、ないだろうか。会長が受験勉強をしていることは聞かずと知れている。受験するのはあの東都大学なのだ。いくら会長だといっても、相当勉強しなければ受からないと思う。
 受験に関連して、会長が引退してしまってから、一度も生徒会室に来ていない。来てほしくないわけではない。いや、ボク個人としては来てもらいたいほどだ。だからといってたまにはと生徒会室へ足を運んでもらうように言う資格はボクにあるはずがないし、ましてやそんな馬鹿げたことを言って今後の人生を左右するような受験勉強を邪魔するなんてもってのほかなのである。会長の結果によっては、責任は負えない。彼の一生を養うこと、どんな結果であっても受けとめてやれるような覚悟を持っていなければならない。口先だけでは簡単に言うことができる。安形さんなら大丈夫だと信じきっているボクの甘く温い覚悟などでは何も言う権利などないのだ。
 結局、愚か者はボクじゃないか。慣性の法則など働かなかった右腕はやがてだらりと力なくぶら下がった。その腕を再び持ち上げる力もインターホンを押す勇気も何も湧かなくて、視界を水の膜でゆがませ、靴を見つめながら背中を丸くして帰路についた。



110813
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