特別扱いしてほしい。ファンクラブの女の子や、そうでない女の子たちに告白されるときによく言われる言葉だ。彼女たち曰く、その他大勢の人々とは程度をちがえて区別してほしいのだそうだ。

「あのときの返事、考えてくれたかな」

 声に反応した左手が止まった。それから一度ペンを置いて、そうですね、とうなる。

「たとえば、母親に恋愛感情を抱かないのと同じことです」

 どこか遠くを見ながら椿ちゃんは言う。机にも頬にも書類や鉛筆、すべてに朱色が重なる。その朱色のどれかに目を落としながら、続ける。

「榛葉さんのお気持ちはすごくうれしいんですけど。榛葉さんはあたたかくてやさしくて、同じ部屋にいていつも、とても安心するんです。でも、ごめんなさい」
「謝らないで。いいんだ、ごめんね、気にしないで」

 断られたことよりも謝られることのほうが心が痛むし、謝罪するときはきちんと顔を見る律儀さに感心してしまう。

「どうしてか、って、聞いてもいいかな?」
「…母のような慈愛をもって接してくれたからです。それは、母親に恋愛感情を抱かないのと同じことです。あるいは、榛葉さんがボクをファンクラブの女の子たちとはまた別に特別扱いしてくださっていれば、結果はちがっていたかもしれません」

 特別扱いしていれば、だなんて言われてしまっては、きみの特別になりたい、なんてことはもう、言えなくなってしまった。



110515
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