甘い吐息を吐き出しながら安形は言う。そのまま息ができなくなるほど、深く深く口付ける。やがてくちびるを離す。

「ん、飲んで」

 舌を滑っていく唾液をぼんやりと見送りながら、こいつも慣れたもんだなぁと思った。最初はあんなに嫌がってたのに。そうこう思っているうちに、舌が引っ込んで、くちびるが閉じられた。ゆるゆる、きれいな弧を描くくちびる。うっとり、瞳を閉じられる。
 いまさら戻ることも進むことも出来ない俺たちは、身動きが取れなくなってその場に立ちすくんでいる。戻るには知りすぎて。進むには酷すぎて。結局、ずるずるとこのゆがんだ関係を続けている。未だ、終着点はみつけられないままだ。
 あぁ、もう戻れない。
 もう一度、次は心の中だけでつぶやいて何度目かのキスをする。ずぶずぶと沈んでいく感覚に襲われる。深みにはまった者たちの結末。それは傷をなめあうことでしかお互いに愛せない者たちの、ゆがんだ愛だ。
 目を合わせたときの椿の瞳が欲情に潤んで揺れていた。椿の微かに荒い呼吸、火照った頬を見て、あぁ、と思う。おそらく、戻る気なんて毛頭ないのだ、お互いに。きっとこの泥沼が心地よくなってきているのだろう。それがお互いを傷つけ合っているのだとしても。
 あがたさん、かすれた声。だいすきです、あいしています。
 言葉の意味を理解する前に椿を押し倒す。これはふたりが望んだ結末なのだ、と無理に納得させて、この関係に縋り続けよう、終着点はここにしてしまおうと思った。



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