会長が席を立ったのでお供せねばと思って背後についた。なんだか疲れたようなまたか、と言いたげな表情をしたものの何も言わなかった。戸に手をかける。ワックスの効いた扉はからからと音を立てて滑った。会長は一度立ち止まって目を見据えながらありがとう、と廊下へ。オレも当たり前に出ようとしたらてのひらを顔の前に向けられ、トイレにまでついてくるんじゃない!と叱咤された。
 キリは座っていればいい。そういい残して無情にも扉は閉められた。不透明なガラスを見つめていても会長が戻ってくる様子はない。
 せめてなにかすることはないかと室内を見まわすと会長の机のカップに目がいく。そのまま吸い寄せられるように、カップを覗き込んだ。口を付けたとわかる三分のニほど飲まれていたコーヒーの水面にオレが揺らぎながら映っている。ブラックだ。もう温かくはないようである。
 ごく、喉が鳴る。取っ手に腕を伸ばして、一時停止する。

 飲んでもかまわないのか?いや、もうぬるくて飲む気なんかないのかもしれない。会長が戻ったら新しいのを淹れよう。自身をそうやって正当化して無理に納得させて、空中停止していた手で取っ手を握る。ここに、会長のくちびるが。はやる鼓動を抑えてひとつ深呼吸。コーヒーカップの、口をつけたところと同じところから苦いだけの黒い液体を飲み干した。



110417
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