やわらかな日差しが部屋を包み込んでいたのは数時間前。弱々しい夕陽が校舎の向こう側に消えて、蛍光灯ばかりが無機質に部屋を満たす。下校時間を少し過ぎた、静寂に変わり始めた学校。
 書き込まねばならない書類は残り少ないというのに眼精疲労か、小さく整然と並んだ文字が浮いているように見える。一度ペンを置いて目を強く瞑り、こめかみを押さえる。
 背後に感じた気配、それから視線。どうかしましたか、言いながら首だけで振り向いたらポキッ、軽やかな音が響いた。

「オレのは終わったけど。お前のは?」

 手元を覗き込んでもうちょっとか、とつぶやいたのが聞こえた。くちびるの片端のみが皮肉のようにゆるりと上がってゆくのを視界の隅で捉えた。

「なぁ、ちょっと休憩しようぜ」
つばき。

 つ、ば、き。たったこの3字をなぞるように、鼓膜をふるわせる。後頭部がぞわりと粟立つ。まるで脳を直接的に震わされるようだ。彼は、それだけでボクが落ちてしまうのを知っている。首筋にかかる湿った吐息すらも、意図的なものだ。

「だめです、会長」

 下校時間もすぎているのに、早く帰らなければというボクの反対もむなしく、生暖かい手がボタンの隙間を縫って服の中に侵入してきた。びくりと肩が揺れる。器用に片手でボタンをはずされる。耳を噛まれる。熱い。はたして熱いのは会長の舌なのか、顔なのか。わからない。じわじわ、目に涙がたまる。この涙はなんなのだ。
 生ぬるい風を吐き出す暖房も緩急をつけてゆるゆると撫でられる腹にも、意味はあるのだろうか。少なくとも、この行為に意味は感じられない。なにしろ、非生産的なのだ。それなのに、否定の言葉よりも先に吐息が漏れてしまうのが憎らしい。
 頭の隅で書類はこのあとか、何時に帰れるだろう、とぼんやり思った。






▽匿名さま
はじめまして、岡野と申します。このたびは1000hit&フリリクにご参加いただきましてありがとうございました!お望みのすてきな安椿とはまったく正反対ですが、受け取っていただければ幸いです…!
レス不要とのことでしたのでこちらに。鬱もえろも大好きと言っておられましたので鬱えろ?にさせていただきました。えろくないですね。うれしいお言葉たくさんありがとうございます><がんばります!どきどきしながら書かせていただきました、本当にリクエストありがとうございました!

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