「お前の髪にぶっかけたい」
オレの。
カタカタカタ、キーをたたいていた指が止まった。なにを昼間からそんな、そう思った。首を右に90度回転させると、ボッスンは畳にあぐらをかいていた。床をみている。ひとりごとにしても、こんなまっ昼間から。話しかけるためにキーをたたこうとして、お前の髪がうらやましい、前にそういってつむじにキスをされたことを思い出した。
頭をあげたボッスンの目は、オレを見てはいなかった。夢見るようなとろんとした目は、オレがいるはずの、空っぽな空間を見ていた。
「なんていうかさ、ほら、きれいなものって汚そうと思える何かがあんじゃん。それがオレのきたないものだと、特に。スイッチはそう思わねえ?」
笑った。オレは質問に答えようとゆっくりとキーを叩き始める。
『それは』
110208