月に一度の席替えが行われ、窓際から2列目の、前から3番目の席になった。まあ何とも微妙な場所だなあ、という感想である。机と椅子を持って移動していると、うしろの席は入学当時から仲良くしているジャンらしいことに気付く。別に席順なんてそこまで気にはしないが、仲がいい友人が近くにいるのはなんとなく心強い。

「この席昼になると眠くなりそうだね」
「真面目なマルコくんは授業中寝たりしねえだろ」

 たしか1時間目は数学だっただろうか。机の中からバインダーとルーズリーフを取り出す。あくびをするジャンの顔はすごく間抜けで思わず笑い出しそうになった。窓際に近いのはいいけれどロッカーが遠いなあとふと左隣の席を見る。一番窓際の列、前から3番目。人気の高いその席に座っているのは、淡い金髪を耳のあたりで束ねている女子だった。

「隣ルウなんだ、よろしくね」

 なんとなく声をかけたくなりそう言うと、ルウはこちらを向いて無言で頷いて、授業の準備を始めた。愛想がないとかそういうわけではなく、これが彼女の性格なのである。人一番冷静というか、無駄なことを話さない彼女は、話すとわりと気さくだし、気遣いができたりするので愛想が悪いと嫌われることはなかった。マルコはルウとはあまり話したことがないため、少し冷たい印象を抱いていたりするが。接点のない女子なんて、挨拶くらいしかしないものだ。声を聞いたことも数えるくらいしかない。すぐにルウから視線を逸らして、前の席で「ジャンのやつクリスタの隣の席だと……くそ……」と嫉妬のこもった目を向けるライナーに、相変わらずだなあと笑った。彼の想い人のクリスタは、「ジャン隣だね、よろしくね」と笑顔を向けている。金髪碧眼、整った容姿、小柄な体、そして心優しい性格のクリスタは当たり前だが人気があった。女神やら天使やらと評され、先輩から告白されていたりもするらしい。入学して数ヶ月でこれなのだから、来年からはきっと後輩からも好意を向けられるだろう。しかしジャンはそんなクリスタに照れる素振りも見せず、「おう」となかなか素っ気ない返事をしていた。クリスタもそんなことを気にしていないらしく、前に座っているルウに声をかける。

「ルウと席近いの初めてだね。なんだか新鮮」
「今回はユミルと離れたの」
「そうなの、ユミルってば先生にすごい顔で席を変えろって言ってて止めるの大変でね。あ、ルウの前アニなんだ」

 うわ、まともに話したところ初めて聞いたかもしれない。マルコは思わず視線をルウに戻す。前から2番目の、ライナーの隣の席らしいアニは無表情のまま振り向き、溜め息をついている。

「保護者は今回いないんだね」
「もう、ユミルのこと? 私別にユミルの子供じゃないんだから」

 ぷくっと頬を膨らませるクリスタに、ライナーはやはり見惚れていた。「おい見ろマルコ、天使がいるぞ」はいはい、と適当に返事をして、ペンケースからシャーペンを取り出した。よく見てみると金髪女子トリオだな、ともう一度左に視線を向けて、面白くてひとりで笑ってしまった。するとルウとばっちり目が合ってしまって、思わず体を竦める。ひとりでにやけているところなんて見られたいものじゃない。羞恥心ががっと押し寄せる。しかしルウは何も見ていないというふうにマルコから視線を逸らして、窓の外を眺めた。茶色混じりの緑だ。高校に入学して同じクラスになって約2ヶ月、初めて彼女と目が合って、初めて彼女の瞳の色を知った。

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