「それでさー何も言わないけどじーっと私のケーキ見てくるもんだから、ほしいの? あげようか? って聞いたら『別にいらない』とか素っ気ないこと言うんだよ。だからあーんてしてあげたらさ、ものっすごい顔しかめて『いらないって言ってるじゃん』て、あんたどんだけ頑ななんだよ! みたいな! もーめっちゃ面白くてさーぐいぐいフォーク押しつけてたらしつこいって頭ぶたれちゃって! 口と性格は悪いけど手は上げない月島くんがだよ! やばいよねめちゃくちゃ面白いよね! あんまり押しが強いタイプは得意じゃないみたいでアイダッ!」
「人の席に座って何やってんのアンタ」

 喋ってる途中で衝撃を与えたら舌噛むから危ないんだよ! ジンジンと痛む頭を撫でながら衝撃を与えた犯人を睨みつけると、さっさとどけというふうに睨み返された。なんだよーほんとかわいげがない。私の無駄に長いトークに付き合わされていた山口くんは苦笑いを浮かべていて、「ツッキー用事終わったの?」と小学生からの付き合いらしい月島くんを見上げた。山口くんは月島くんと違ってすぐ睨まないし優しいし、何よりそばかすが幼さを残していてとてもかわいい。ちょっと垂れた目尻なんてずっと見ていられる。本人が恥ずかしがるのであんまり行動に移さないようにしているけれど。
 さっき私の頭を叩いたであろうノートを机の上に置いて、私の肩をぐいぐい押して椅子から落とそうとする月島くん。ほんと男の子としてどうなのこの子! 仕方がないから立ち上がって席を譲ってやる。いろいろと話しかけてくれる山口くんに対しての返事は「うん」「へえ」などと適当極まりない。それでも山口くんは嬉しそうににこにこしているから本当に天使だと思う。

「ちょっと、いつまでここにいるつもり? さっさと自分のクラス帰りなよ」
「だって飛雄くん寝ちゃってて構ってくれないんだもん」
「君さあ、僕らのこと王様のかわりだと思ってんの? 不本意にもほどがあるんだけど」
「それは違うよ、だって飛雄くんはバカだけど月島くんほど性格悪くないし」
「え? 僕もしかして喧嘩売られてる?」
「ま、まあまあツッキー落ち着いて。ていうか苗字さん言葉選び下手すぎるから」

 このあいだの現代文のテストの点数教えてあげようか、というと、すかさず月島くんに「興味ない」と返された。今のは山口くんに言ったんだよ!
 飛雄くんは私の幼馴染だ。小学生のころからずっとバレーボールをしていて、目つきは悪い口も悪い極めつけに頭も悪い彼だけど、その競技に関しては才能を発揮していた。中学のころはなんかいろいろあったみたいだけど、別の学校に通っていた私はよく知らない。そして私たちは今年、3年ぶりに同じ学校に通うようになったのだ。

「だいたい寝てるなら起こせばいいじゃん、わざわざこっちまで来る意味がわからない」
「ツッキー照れてる?」
「その呼び方ほんとやめてくれない」
「苗字さんぶれないね」
「ツッキーが嫌がることならなんだってやるよ、そこに遠慮なんて必要ないのさ山口くん!」
「迷惑甚だしい」

 この春に飛雄くんと同じバレー部だということで仲良くなった月島くんと山口くんは進学クラスで、私の幼馴染と違って頭がいいらしい。ついでに目つきも口も悪くない。ちょっとは見習えよと一度冗談で言ったみたところ、「生まれつきだほっとけ!」と怒鳴られた。ほらーもうそういうところがよくない。久しぶりに同じ学校に通うことになって、さらには同じクラスなものだから私はよく飛雄くんに構ってもらおうとちょっかいをかけている。しかし彼は授業中だけでは満足できないらしく休み時間もよく机に突っ伏して眠っていた。君さあ夜ちゃんと寝てるの? そのあいだつまらないので偶然にも隣のクラスらしい月島くん山口くんコンビのところに遊びに来ているのだ。山口くんは最初のころこそ戸惑っていたけれど、最近は慣れてくれたらしく笑顔で迎えてくれる。問題は月島くんだ。私がひょこりと顔をのぞかせるだけで心底不愉快と言わんばかりに顔をゆがませ、なにも見ていないというふうに視線を逸らす。しかしそこで私はくじけず、毎回満面の笑みを浮かべて月島くんのそばに近寄っている。そしてまたネチネチと嫌味を言われる。一度その光景を見た飛雄くんに「お前いつの間にドMになったんだ?」と首を傾げられた。とんでもない誤解である。

「で、何の話してたの」
「えっ、もしかして月島くん、私と山口くんだけずるいって思ってる? 自分も仲間にしてーって思ってる?」
「…………」
「ツッキー角は! 角はダメだって!」

 ガタリと椅子から立ち上がって持っていたノートの角を私の頭に振り落そうとする月島くんを必死に止める山口くんがとてもかわいらしかった。この子ってねえいつも月島くんといるからわかりづらいんだけど案外背が高いんだよ。優しいしかわいいし申し分ないよねー女子のみなさーんここにいい男子いますよーつっても誰にも渡してやんないけど。山口くんは弟にしたいタイプ。

「このあいだの休みにたまたま会ったじゃん。そのとき喫茶店に無理矢理連れ込んだときの話してたの」
「ああ……なかなか帰してくれなかったときのね」
「私のフルーツタルトうらやましそうに見てたんだよねー! 自分は何も頼まなかったから! あーもう思い出すだけで面白くて笑える」
「ねえチャイム鳴るから早く帰ったら?」

 そうして月島くんが指差した先にはアナログな掛け時計が。休み時間が終わるまであとほんの数分といったところで、そろそろ教室には先生がやってくるころ。もうちょっと4組にいたかったけど、仕方ない。名残惜しいなあと呟くと「どうせまた来るでしょ」と素っ気なく言われた。さすが月島くん、よくわかっているなあ。でも君、私がどうしてこんなにしょっちゅう隣のクラスに遊びに来てるか知らないでしょう。

「王様に子守り料金もらおうかな」
「楽しんでるくせに」
「帰りなって言ってるじゃん」

 なぜか私より白いほっぺたをつっついてやると、心底鬱陶しいという表情をされた。もう慣れたしむしろかわいらしくて仕方ない。はあい、と気の抜けた返事をして4組の教室から出ていき、出入り口のところからひょこりと顔だけでまた教室内を覗く。いつもこうしているから山口くんはまた苦笑いしながら私に手を振ってくれた。次の授業で使う教科書をぱらぱらとめくる月島くんの視線は、私には向かない。君、私がどうしてこんなにしょっちゅう隣のクラスに遊びに来てるか知らないでしょう。私が休みの日、家でケーキ作りの練習してるなんて知らないでしょう。山口くんから「ツッキーはショートケーキが好きなんだよ」なんて聞かされたらさ、練習するしかないじゃん。今やっとスポンジケーキが綺麗に焼けるようになったんだよ。今度はクリームがうまく塗れるように頑張るね。そのあとはどれだけ見栄えよくいちごを飾れるか頑張るから、上手くできたら君に食べてほしいな。好きな子ほどいじめたくなるって、ほんとなんだから。
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