今日、コニーと喧嘩をしました。お昼ごはんの蒸かした芋が、私のよりコニーのほうが大きかったんです。交換してくださいとお願いしたのに、いやだと却下されてしまいました。芋の味なんてどれも一緒なのにコニーのケチ! ハゲ! と言うと、そのセリフそのまま返すわ、俺はハゲてねえ! なんて言い返してくるものですから、絶交です! なんて売り言葉に買い言葉。ジャンにどうしてお前ら口きかねえんだ、と聞かれましたが、正直に話すと馬鹿にされるのわかっているので話しませんでした。
 喧嘩をしたのがお昼ごはんのときで、今はもうお昼の訓練が終わって、夜ごはんまでの自由時間です。時間がたつにつれ、ひどいことを言ってしまった、となんだかへこんできました。女神のクリスタが、だいじょうぶ? と優しく声をかけてくれます。私よりずっとちいさくてかわいくて、そのうえ性格も女神とかあなたはなんなんですか。天使ですか。女神でした。
 そんな女神の隣でユミルが「どうせ腹減ってんだよほっとけ」なんて言います。ちょっと、私がそんな食い意地はってるみたいな言い方やめてください。いつでも食べ物のことしか考えてないみたいな言い方やめてください。否定できません。
 二人が着替えに宿舎に戻っていくうしろ姿を眺めていると、視界の端にマルコと並んで歩くコニーが見えました。向こうは私には気づいていないようです。ほっとしたような、むっとしたような。自分のわがままぶりにため息が出ます。はあ。

「サシャ、どうしたの」

 気を抜いていたところに声をかけられ、ついびっくりして変な声を上げてしまいました。振り向くと、驚いた顔をしたオミ。彼女も今から着替えに行くのか、まだ兵服姿のままです。

「オミ〜〜〜……」
「あらら、元気ないねえ、おなかすいた?」

 オミもですか! なんだか怒る気にもならなくて、ぐったりと肩を落とします。よしよし、なんて頭を撫でられて、ああ、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな、なんて思いました。いやいや、私とオミは同い年ですからね!
 宿舎に帰りながら、お昼の喧嘩のことを説明します。全部聞き終わったオミは、んふふ、と小さく笑いました。

「なにがおかしいんですか、これは由々しき事態なんですよ」
「サシャ、由々しいなんて言葉知ってたんだねえ」

 あれ、なんかすごく馬鹿にされてますね。これでもこないだの順位発表、ギリギリ10位に食い込んでたんですよ。そういうと、でも座学の成績は下から数えたほうが早いんじゃない、と返され、口を閉ざすしかありません。ぐぬぬ。
 いやいや、そんなことはどうでもいいんですよ。

「コニーはもう私のこときらいなんです。きっともう口をきいてくれません……」
「弱気になってるねえ。サシャはちゃんと反省してるし、ごめんなさいって言えば、コニーもきっと許してくれると思うけどなあ」

 そうでしょうか。そうだよ。そうやって励まされていると、いつの間にか自分たちの部屋についていました。私もオミも兵服から私服に着替えて、夜ごはんを食べるまで、本を読んだり話をしたりします。
 オミは自分のベッドの枕元に置いてある小物入れのようなかごから、両手に収まるサイズの瓶を取り出してきました。ふたは金色に光っていて、中にはいろんな色のつぶがたくさん入っています。なんだかすごく高そうですねえ。
 私を手招きして、オミはみんながいるほうに背を向け、壁を向きます。私も同じように壁に向くと、隣によってきたオミはその金色のふたを開けて、ちいさなつぶをふたつ出しました。ほのかに、甘いお砂糖のにおいがします。

「これね、とっておきの日に食べるお菓子なの。こんぺいとうっていうんだって」
「甘いにおいがします」
「だってお砂糖のお菓子だもん。ごはんの前だから、ひとつずつ」

 人差し指を口元にあてて、しー、と内緒のしぐさ。緑色の瞳が子供のように輝いています。取り出したつぶ……こんぺいとう、の、白いほうをオミが口に含み、おいしいと笑顔を浮かべます。私もそれに続くように、黄色いこんぺいとうをつまんで、ぱくりと。
 口の中にお砂糖の味がふわりと広がって、だけど全然甘すぎなくて、すごくおいしい。こんなお菓子、初めて食べました。どこに売っているんでしょう。飴とはまた違うそのお菓子を味わって、口の中からなくなったころ、オミはこんぺいとうは星みたいでかわいいから好き、と言いました。
 にこにこと嬉しそうに、楽しそうに笑いながら、ロマンチックな言い方をする。オミはたまにこうしてくすぐったいことを言います。そこが私は好きです。

「こんぺいとう食べたから、サシャは仲直りできます!」
「それって根拠あります?」
「ない!」

 またきれいな瓶をかごの中に戻して、んふふと笑う。オミの笑い方も好きです。

 夜ごはんのとき、オミはいつもミカサたちと食べているのに、今日は私と食べてくれました。さりげなくコニーの近くに座って、私が謝るタイミングを作ってくれたみたいです。私たち、同い年なのに、おかしいなあ、私が妹みたいです。おかしいなあ。
 オミがジャンやマルコと話しているあいだに、ひとつ開けて隣の席に座っていたコニーにパンを渡して謝りました。コニーは男の子なのに大きな目をもっと見開いて、お前、パンいらないのか!? 何企んでる!? なんて言うもんですから、少しむっとしてしまいましたが、ふたりで半分こして食べました。

「これで仲直りな。俺も悪かった」

 でも芋は大きくてもやらねえぞ。ケチな男はモテませんよコニー。
 今日は私にとって、とっておきの日になりました。

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