たまの休日くらいゆっくり休もう。アルミンにそう言われて街に出てくると、ちらほらと訓練兵の姿を見かけた。と思ってよくまわりを見てみると、案外たくさんの訓練兵が遊びに来ているようで、何人か顔見知りがいて、休みにすることはみんな一緒か、となんだか笑えた。まあ、普段訓練に励んでいるあのあたりは崖か森くらいしかないし、当たり前といえば当たり前だが。
 いいにおいのする屋台の店主から、芋を揚げて蜜を絡めた菓子をすすめられた。サシャが喜びそうだね、とアルミンが笑い、たしかにそうかもしれないとつられて笑い、帰りにミカサとオミにでも買っていこうということになった。あいつらはなにをしているんだろうか。たしか朝からオミがいないとあのミカサが慌てたように探し回っていたけど。そのうちにオレは自主練に励もうと思っていたところだったけど、まあ、にぎやかな街も楽しいので、誘ってくれたアルミンには感謝だ。

 今は昼を少しすぎたころ。昼ごはんはすでに食べてきているため、適当に店に入ってひやかすくらいしかすることがない。アルミンは本を買ったり日用品を買ったりするらしい。オレは特にほしいものがなかったけど、そろそろ寝るときが寒くて仕方ないので、毛布とか、ブランケットとか、そういうものを買ってもいいかもしれない。というと、アルミンはマフラーがほしいという。

「前まで使ってたの、ぼろぼろになってきたんだ。どこかでいいのが見つかればいいけど」
「どんな色がいいんだよ」
「んー、なるべく地味な色がいいなあ」

 たしかに派手なものは似合わないかもしれない。それにアルミンの髪はきれいな金だから、少し地味な色のほうが映えていいんじゃないだろうか。

 手当たり次第に衣料品を売る店に入ってマフラーを探してみるけど、みんな考えることは同じなのか、もともとマフラーの品数が少ないのか、あまりいいものが見つからなかった。色が好みでも長さが短すぎたりデザインが派手だったり、その逆だったり。4件ほど店を回ったあたりで、「疲れちゃったね」とアルミンが言って、近くのベンチに座ることになった。オレの目当ての毛布は購入できたけど、これほどいいものが見つからないとは思ってもいなかった。
 近くの屋台でジュースを買って、りんごのほうをアルミンに渡す。オレはオレンジ。少し水が多くて味が薄いが、まあ飲めないことはない。ふたり並んでベンチに腰かけると、やはり疲れていたのか無意識に溜め息が出た。

「エレン、アルミン!」

 いいものが見つからないと文句を言っていると、突然大声で名前を呼ばれた。そちらのほうを向くと、訓練のときとは違って、私服でオミとミカサと、それからサシャが立っていた。サシャにいたっては、何かものを食べている。相変わらず食べることが好きなやつだ。
 オミもミカサも紙袋を胸に抱えていて、その中に同じデザインのものを見つける。女子が好きそうな、なんかおしゃれなやつ。色もなんか薄いピンクとかだし。

「ふたりも来てたんだ! なにしてたの?」
「エレン、少し薄着すぎる。風邪を引いてはいけない、私のカーディガンを貸そう」
「うるっせーなお前はオレの母親かよ! 寒くねーよ別に!」
「まあまあエレン……マフラー探してたんだけど、あんまりいいのがなくて」

 ミカサはいつでもオレを子供扱いしてくる。同い年だっていうのに、オレはそれが気に入らなくて仕方がない。身長もなんでか同じ高さ。成績はミカサのほうが上。くそ、いったいどうなってんだよ……!
 ぎりぎりと歯を食いしばるオレの横で、アルミンとオミはマイペースに会話を続ける。おい、お前らミカサ止めてくれねーのかよ、薄情なやつらだな、幼馴染だろオレたち。サシャだけが生ぬるい視線をよこしてくる。やめろ、その「仕方ないですねえエレンてば」みたいな視線。やめろ。もしゃもしゃもしゃもしゃ、ずっと口動かして何食ってんだこいつ。

「じゃあ僕たちはそろそろ帰るよ。エレン、あと本だけ買って帰ってもいいかな」
「え? あー、わかった」

 呆れた表情でサシャを見ていると、いつの間にか会話は終わったようで、アルミンはジュースの入っていた紙コップをくしゃりと握りつぶした。オレも持っていたジュースを一気に飲み干す。お行儀が悪い、とミカサがじっと見てくるけど、無視だ。
 近くに置いてあったごみ箱に紙コップを捨てる。本屋はどのあたりだっただろうか。アルミンの指差す方向には少し古そうな店が立っていて、ああいう店のほうが案外いいものがそろっているのだという。

「エレン、エレン。これあげる」

 3人と別れようとするとオミに呼び止められ、おしゃれな紙袋からこれまたしゃれた小瓶を渡される。なんだこれ。中を覗くと、オミの髪の色と同じ、蜜の色をしていた。はちみつ?

「今日もエレンは自主練するのかなーって思って甘いもの買ったんだ。疲れてるときには甘いものがいいんだって聞いたから」
「けどこれってはちみつだろ? 高かっただろ、返す」
「えっ、せっかく買ったんだからもらってよ、別に気にしないから」

 私が買いたくて買って、渡したくて渡したんだから。唇を尖らせながらオミは言う。こいつは昔からこんなやつだ。したいと思ったことは絶対にする、わりと頑固なところがある。この食糧難の時代、甘いものなんて高価だそんなものをほいほいと誰かにやれるなんて、オレにはできない。オミはちいさいころからお人よしだ。
 けれどオレを労わってこうして考えて買って、そして渡してくれたんだと考えると、突っ返すのも少し悪い気がしてきた。押し付けてきた小瓶を再び受け取り、「ありがとな」と言うと、照れたのか首を傾けて、んふふと笑う。オミの笑い方が、オレもミカサもアルミンも、なんだかとても好きだ。

「アルミン、どんなマフラーがほしかったか言ってた?」
「え? あー……、地味な色がいいって言ってたな。デザインも派手じゃないやつがいいって」
「そっかなるほど、ありがと」
「なんだよ、いい店知ってんのか?」
「うーん、まあそんなとこ。じゃあね!」

 そうしてオミは未だ何かをもしゃもしゃ頬張るサシャと、オレがあげたマフラーを巻き直すミカサのそばに走っていった。入れかわるようにふたりのそばで話していたアルミンがオレのそばに帰ってきて、手に持っている蜂蜜の小瓶を覗きこんで、大きな瞳をより大きく見開く。

「エレン、それ、はちみつじゃないか」
「オミが疲れには甘いものがいいってくれた。アルミンも食うか?」

 と言っても、はちみつってどういうふうに食えばいいのかわからないが。ああ、いつも食事に出てくるパンにでも塗って食べてみるか。オミがくれたと言えば、苦笑いしながら納得するアルミン。さすが幼馴染だ。お礼にさっきの芋の揚げ菓子を買っていこう。サシャに取られないように、こっそり渡すべきだよな。小瓶を日差しにかざしてみると、きらきらと輝いて宝物のように思えた。


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