いつも余裕があるように振る舞っている彼だけれど、今日は朝から、というより昨日の晩からどこかそわそわとしていた。どうかしたのかと訊ねてみても別にと素っ気ない返事しかしないし、じゃあそっとしておいたほうがいいのかと思えばやたらと明日の予定を聞いてきたりする。わかりやすいなあと呆れたものだが、訓練兵として一緒に過ごしてきたし、もう慣れたところもある。が、誕生日が嬉しいなら嬉しいと正直に言えばいいのである。そわそわしながらまわりをきょろきょろと見渡すジャンはどうも不審者くさい。こういうときは面倒くさいから気付かないふりをして放っておくのが一番なのだ。

「なにジャン、なんかいいことでもあったの」

 オミ君ってやつは! マルコは頭を抱えたくなった。以前エレンが「ほんとにオミって空気読めねえ」とぼやいていたが、今ならそれが痛いほどわかる。思ったことをすぐに口に出す、つまり気になったことはすぐに訊ねる性格の彼女は、そわそわとしているジャンに気付いてしまったらしい。勢いよくオミを振り返ったジャンは、目線をうろうろさせながら刈り上げた後頭部をかいた。

「べっ、つになんでもねえよ。つかあってもお前には言わねえ」
「何その言い方、感じ悪い」

 拗ねたように唇を尖らせるオミ。ああもうミカサでもアルミンでもいいから今すぐ彼女をどこかに連れて行ってくれないだろうか。エレンが来ると確実に面倒くささが増すので今回は遠慮願いたい。ふたりから少し離れた場所でマルコはじっと見守る。たまに面倒くさい性格だなあと思うけれど、なんだかんだでジャンのことを心配してしまうのである。

「ていうかその目付きでにやにやされると気持ち悪いよ」

 オミ君ってやつは! マルコは両手で顔を覆った。空気が読めないどころかデリカシーの欠片もないではないか。せめてもう少しオブラートに包むとかいろいろあっただろうに。やはり空気が読めない人物にそういうことを求めることが無駄なのだろうか。はらはらとしながらマルコは物陰からふたりを眺め続ける。気持ち悪いと言われて固まっているジャンなど気にする素振りもなく、オミは「じゃ、そろそろ休憩終わるし戻るねー」と言い残してミカサのところまで小走りで駆け寄って行ってしまった。たしかにそろそろ食事時間と昼休憩が終わり、昼の訓練が始まりそうな時間だ。依然固まったままのジャンの隣を通りすぎたコニーが「おいジャン、立ちながら寝てんのか?」と不思議そうな顔をして、そのうしろを歩くサシャが「寝不足ですかね」とパンを頬張りながらジャンの隣を通りすぎていった。行儀が悪いから食事は座ってしなさいと言いたいが、もう彼女は離れた場所でクリスタやユミルと話をしている。マルコは物陰からジャンのほうに歩み寄り、肩を揺すってやった。

「ジャン、ほら始まるよ。生きてる?」
「……勝手に殺してんじゃねえ」
「そうだね、ジャンは憲兵に入るんだもんな」

 声がどこか弱々しいジャンの肩を優しく撫でてやる。変なプライドが邪魔をして今日が誕生日だということをみんなにアピールできなかった彼のために、マルコは夕食のときに食堂でみんなに教えてやろうと心に決めた。誕生日おめでとう、と言ってやると、「っるせ」と不貞腐れたように吐き捨て、しばらくの間をおいて「……ありがとな」とこれまた弱々しい返事が返ってきたので、もう呆れたように笑うしかない。マルコもこの無駄に自尊心の高い友人のことを気にかけてしまうのである。とりあえずオミにはデリカシーというものを覚えてもらいたい。アルミンも幼馴染相手に気苦労が絶えないなあ、と溜め息をついた。




▽ Happy birthday dear Jean !

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