夜中にふと目が覚めた。
 最近少し冷えてきて、夜は毛布を肩までかぶらないと寝られやしない。薄くて安っぽい毛布でも、そうすると多少は寒さをしのげる。またまぶたを下ろして眠気が来るのを待つけれど、逆に目が冴えてきてまったく眠れない。まわりからは規則正しい寝息が聞こえる。隣で眠るやつを起こさないようにそうっと体を起こし、窓のほうを向く、と。

「あ、ごめん、起こしちゃったかな」

 まわりが起きないように、ちいさな声でそう言い、んふふ、と笑う。私の隣で眠っていたはずのオミが、毛布を羽織って窓の外を眺めていた。月光が降り注いで、淡い茶髪が金に見える。まさか自分以外に起きている人がいると思っていなかったので、少し驚いた。

「あんたなにしてんの」
「星を見てるの。眠れないなら、アニも一緒に見る?」

 星を見ている。まあなんてロマンチックなことを。
 私には似合わないな、なんて考えながら、オミの足元に積まれた本を見つける。きっと読んでいたのだろう。こいつもアルミンほどではないが読書が好きらしい。というか、こんな薄暗い中で月明かりだけで読書とか、目、悪くなるんじゃないの。

 なにをするでもなく、オミはずっと外を眺めていた。私も座って同じように毛布を羽織り、同じように外を眺めるけど、細くなった月と、ちいさな星がいくつか見えるだけだった。何時ごろなのかはわからないけど、この部屋は私たちしか起きていないし、外にも人影がまったく見えないので、そこそこ遅い時間なのだろう。たまに少し強く風が吹いて木々が揺らぎ、窓の枠もカタカタと鳴る。隣から寒いねと聞こえてきた。

「あんた、なにしてんの」
「だから、星を見てるんだってば」
「ずっとこうやって眺めてるだけ?」

 呆れたもんだ、もっといい暇つぶしの方法はないのか。よくこんなことを長時間していられる。といってもいつからこうしているのかは知らないのだけど。
 起床時間まではまだまだあるだろうし、もう一眠りしよう、と体を横にし、毛布をかぶろうとした、そのとき。

「見て、見てアニ! ながれぼし!」

 やはりまわりに気を使って小声で、だけど興奮したようにそう言うオミにぐいぐいと腕を引かれ、また仕方なく体を起こす。流れ星ひとつでこうもはしゃげるとは。

「今日は星が降るんだよ」

 にこにこと嬉しそうに、楽しそうに笑いながら、またロマンチックな言い方をする。こういうくすぐったいところが私は少し苦手で、でも好きだったりするのだ。またふたりで並んで空を見上げると、今度はきらきらとふたつの流れ星。それが消えたと思えば、違うところできらりとひとつ。
 流星群っていうんだって。宝物を見つけたように思えた。こうやってオミと、私がふたりだけで眺めている空。星。月。あまり興奮したりしない私でも、次々と現れては消える流れ星は、すごく特別に思えて、すごくきれいだと思った。
 だんだんと星の数は増えて、空いっぱいに流れ星が広がった。流星群って、すごい。星が降る、というのは、間違いではないかもしれない。

「きれいでしょ」
「そうだね」
「あ、アニの目に星が映ってる」
「こっち見ないで空見な」

 そう言ったのは照れ隠しで、きっとオミのほうもそれをわかってる。またんふふと笑い、ずり落ちてきた毛布を肩にかけなおして、冷たくなってきたらしい手に息を吐きかける。すうっと弧を描いて、消えて、また別のところに。流れ星のうしろにはいつもそこにある星も輝いていて、宝石を集めたようだ。

 しばらく眺めていたけれど、だんだん星の数が減ってきた。もう流星群は終わりだ。両手をこすり合わせながら「そろそろ寝よっか」とオミは横になる。私も体を横にして、毛布をかぶる。オミは体をこちらに向けて、くすくすと楽しそうに笑って。

「アニ、ちょっと興奮してたでしょう」
「……別にしてないよ」
「うそ。だって、目、きらきらしてたし」
「星が映ってたんだろ」
「星も映ってたけどー」

 もう、素直じゃないんだから、とふくれた顔をして見せ、またくすくすと笑う。こいつは本当にくるくると表情を変える。私とは違う。オミのまわりはいつも笑顔や笑い声であふれている。人徳、というやつだろうか。いや違うか。とりあえず、今日はもう寝よう。明日も早い。いや、もう今日になっているかもしれない。

「アニと見られてよかった」

 まぶたを閉じた。そうしていると、とろりと眠気がやってくる。隣からも小さな寝息が聞こえてきた。流星群は二人だけの秘密になって、明日も明後日も、また訓練が始まる。おやすみ。オミ、私もあんたと見られてよかったって、そう思うよ。

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