私たちの日常が崩れた日から5年がたった。あのときと同じように巨人が私たちを見ている。食おうとしている。やつらはどういう目的かは知らないが、私たち人類を捕食する。殺戮する。シガンシナ区でのあの光景が目の前に浮かんだ。私の目の前で私のお母さんを食べた巨人が、またここにいるかもしれないのだろうか。仇を取りたいかと言われたらそりゃあまあ是と答えるが、私は残念ながら成績はあまりよくなかった。立体機動だって人並みにしか扱えない。
 私の目の前でだんだんと人が食べられていく。3年間つらい訓練を共に耐えてきた仲間も、駐屯兵団の先輩たちも、みんなみんな、巨人に捕らえられては頭を食い千切られ、体を折り曲げられ、血まみれになりながらやつらの口の中に収まっていく。あれだけ巨人を殺すための訓練をしたのに、いざこいつらの目の前に立つと何もできない。恐怖で足が竦む。こわいにげたいだれかたすけて。ごめんなさい私はあなたたちを見捨てることしかできない最低の兵士だ。恨まれたって仕方ない。震える足を殴りつけて、後ろを振り返ったと同時にワイヤーを建物に突き刺し、屋根の上に逃げる。こんなところに逃げたって、10メートル級の巨人には捕まえられてしまう。どうすればいい。私たちに指示を出していた駐屯兵団の兵士は食べられてしまった。私がいた班のみんなは死んでしまった。あれだけ頑張った訓練の成果を見せることなく。どうして。どうしてどうして、どうしてこんなことになっているの。どこからか足音が響く。逃げなきゃ。屋根の上を走って、屋根から屋根へと飛び移る。立体機動はあまり使わないようにしないと、ガスが切れてしまう。さっきまで使いまくっていたのだ、いつ飛べなくなってもおかしくない。みんなは、104期の訓練兵たちはどこにいるんだろう。せめて長い時間ときを共にした仲間のところに行きたい。親しんだ人たちの顔を見たい。ずっと走り続けて息が上がってきた。足だってだんだん力が入らなくなっている。今足を止めたら私を待っているのは死だけだ。こんなところで死んでたまるか、わたしは、私は調査兵団に入って、お父さんみたいになりたいんだ。





 目の前にニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべた巨人がいた。気付かなかった。どっと汗が流れてくるのに、背筋は恐ろしく冷えている。巨人なんてみんな死んでしまえ。何で感情なんかないくせに、お前らはいつも笑っているんだ。何で私たちを食べるんだ、なんで、どうして、私たちの平和な生活を返して。
 グリップを握りなおす。手汗で滑りそうだけど、一瞬でも離すと死ぬ。巨人が私に向かって手をのばす。13メートル級だろうか。もっと高い建物に移動しておけばよかった。額から汗が伝い落ちる。まずは左のワイヤーをやつの脇腹に刺して、背後に回ってからうなじを―――。そこまで考えたところで、体に激痛が走った。何が起きたのか最初はまったくわからなかった。吹き飛ばされた私の体は屋根のふちギリギリまで転がって止まった。痛みを堪えながら瞼をうっすらと開くと、さっきの13メートル級のほかに、同じくらいの大きさの巨人がいつの間にか現れていた。そんなのアリか。どうして今日はこんなに鈍いんだよ私。頭を強く打ったらしく、血がだらだらと流れてきて視界が悪い。体のあらゆるところが痛い。巨人がまた私の方に手をのばす。グリップを握りなおす。力が入らなかった。どうしようこわいいたいにげたい、だれかたすけて。お父さんお母さん、私まだ死にたくないよ。まだ壁の外を見てないよ。ひとりぼっちで死ぬなんていやだ、巨人になんて食べられたくない、せめて何か人類の役に立ちたかったし、恋だってしたかった。どうしてこんな世界になってしまったんだろう。どこかでエレンがないている。




不自然に広がる灰色と一緒に吐き出した二酸化炭素と鼻についた潮の匂い


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