関ヶ原の合戦―再燃―【本編】 | ナノ


関ヶ原の合戦―再燃―




 小生の穴蔵に前田の風来坊が訪ねて来たのは、あの墓参りの数日後のことだった。

 土産に持参してきた酒を空けながら、

「この前話した家康と三成さんのことなんだけどさ」

 と言われて、思わず一瞬動揺したが、すぐに東西の再戦の話だと気付く。

「事が大きくなる前に一つ2人を説得してみようと思ってね」

 あっけらかんと告げられた言葉に、小生は嘆息した。

「まあ徒労に終わるだろうな。どっちも聞く耳なんざ持ちやしないだろうさ」

「駄目で元々、無謀は承知だよ。でもそれをやらなきゃ、俺は絶対に後悔する」

 風来坊は杯を傾けながら、どこか神妙な顔付きで呟くように言った。

「――秀吉の時みたいな気持ちはさ、もう真っ平なんだよ。いくら話をしたくても、物言わぬ亡骸になってからじゃもう遅いんだ……」

「……そう、だな」

 風来坊の言葉は、小生の中でひどく重く響いた。

 墓参りのあの日からずっと胸の隅っこに留まっているわだかまり。

 ――終わった筈の恋の未練。

 まともに話を出来ずに終わりにされた三成との関係。

 まともに話をさせないまま終わらせた権現との関係。


 東西両軍が再びぶつかれば、恐らくどちらかが命を落とすことになるんだろう。


 物言わぬ骸とはもう何も話せない。


 ――それで、いいのか?


「――小生も後悔は嫌いだ」

「官兵衛さん……?」

 小生は心を決めて、風来坊にこう告げた。



「小生が三成と話して来よう」

「小生が権現と話して来よう」

「お前さんと一緒に行きたい」



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