過去と未来3 「赤ちゃんかぁ」 「…欲しいな」 ハッとして慌てて口を閉じる。 けど、これはチャンスかもしれない。恐る恐る彼の方を見ると、無邪気に笑っている。安堵した自分と悲しみを感じる自分が居て、綯交ぜになってしまう。 「出来たら良かったな」 私は一瞬にして固まった。中野君は、気付いている。でも、私は気付かないふりをする。 ふ、と吐いた細い息は意思とは無関係に震えていた。 「…そう、だね」 普通に言えただろうか。笑みを貼り付けて彼を見る。 中野君は困った顔をして、繋いでいない方の手で私の頬に触れる。バスケ部だったために少し皮の固い手の感触に泣きそうになった。 「…泣くなよ、河合」 「…、泣いてない」 「泣いてる。涙には弱いって前にも言っただろ?」 最初で最後のあの喧嘩の事を言っているのだと早々に分かった。中野君と付き合い始めて二周年の記念日を、彼が忘れてしまっていたのだ。私は怒って大喧嘩になった。 そんな思い出も、今では笑い話に出来なくなってしまった。あと10年経てば、再び笑って話せるようになるのだろうか。それとも、一生…――― 彼の手が、私の涙に濡れていく。 ←|戻|→ . |